2020年04月04日

少年法がテーマになった小説です。伊坂作品らしく、軽く読めるのですが、考えさせられます。

「サブマリン」             伊坂 幸太郎
★★★



家庭裁判所の調査官、武藤が主人公。上司に陣内、同僚に木更津安奈がいる。

武藤は15歳の少年、小山田俊の担当をしている。俊はネット上で他人を脅迫した人物に、「死ね」という脅迫文を、ネットを通じて送ったのだ。

そして武藤が俊と話していると、俊はネットで犯罪を予告する書き込みのうち、どれが実現するかが分かるようになってきたと言う。そして、これから起こりそうな事件の予告を武藤に示すのだが……。

一方、武藤は無免許運転で人をひいた棚岡という少年の事件も扱っていた。轢かれた人は死亡している。棚岡は両親を交通事故で亡くしており、伯父夫婦に育てられた。

小山田俊のほうは、犯罪を実行しそうな人物の住所を特定する。そして武藤にその犯行を止めてほしいと言うのだが、結局近くの学校に匿名で電話をし、その辺りを警戒してもらうことになる。

いつもの伊坂作品らしく、軽いノリで話が進んでいく。しかし、テーマになっているのは、事件を起こした少年を少年法で保護するべきか、裁くべきかという問題だ。被害者の気持ちを考えても、司法の公平性という観点からも、大人と同じに扱うべきだとは思うが、人によって意見は違うだろう。

この一見無関係な2つの話は微妙につながり、それぞれに展開していくのだが、けっこう深刻な状況にもなる。あまりスケールの大きい話ではなく、エンタメとしてすごく面白いというわけでもないが、こういう話もたまにはいいか、と思わされた。
ラベル:小説 伊坂幸太郎
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2020年03月28日

ちょっとスピリチュアルな空手体験を記した本です。

「右脳の空手」     大坪 英臣
★★★★★



著者は東大名誉教授。船舶工学の世界的権威だったという。そんな著者が65歳で空手を始め、今は力を使わずに相手を倒す練習をしている。と聞くとインチキくさいが、そうでないことはこの本を読めば分かる。

東大を定年退職した後、暇つぶしのつもりでフルコンタクト空手を始めたのだが、これにはまってしまう。早朝から夕刻まで稽古をしたこともある。そして入門3年で初段になる。しかし、入門してすぐ、著者は麻山慎吾という館長の不思議な力を体験している。

著者が空手の支部長に両手で右手首をつかまれ、その状態で館長の言うとおりの方向に右手を動かすと、その支部長は床に四つん這いになっていた。

館長は若いころ、筋トレのやり過ぎで腰痛になり、空手への取り組み方を変える。古伝の空手の型(パッサイ、ナイファンチン、セイサンなど)の稽古を行い、腰痛が完治する。それだけではなく、組手でも相手の周りに光る点が見え、そこに拳や蹴りを出すと相手は倒れてしまう。

著者自身もそんな体験をしている。館長が攻撃してくると、手をひらりと動かしただけで館長が倒れてしまう。いくらやっても同じ結果になる。しかも、心は静かで落ち着いている。まさに、空手を究めた達人のような状態である。残念ながら、その状態は2度しか訪れなかったのだが。

著者は、武術空手は動禅ではないかと言う。頭(左脳)を使うと技はかからない。技を成功させるには、無心になる必要があるのだ。そして、武術の本源は「愛」であるとも言う。

あまり書くとネタバレになるのでこのあたりでやめるが、他にもいろいろ不思議な技や現象もあるらしい。少なくとも、武術空手が健康にいいのは確かなようだ。高齢者でもできるし、東京、大阪に道場があるようなので健康に問題がある人、スピリチュアルな現象に興味がある人は一度試してみてはいかがだろうか。
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2020年03月21日

題名から、渋沢栄一の伝記だと思っていたのですが、そうではありませんでした。期待外れです。

「渋沢栄一 日本の経営哲学を確立した男」    山本 七平




新しい1万円札の顔になる渋沢栄一。どんな人物なのかと好奇心が湧き、伝記を読んでみることにした。

人生50年とされた時代(天保11年)に生まれて、91歳まで生きた。当時としては、かなり長生きである。

それでも、若い頃は挫折の連続だったという。もともとは尊王攘夷派で、高崎城乗っ取りを計画したのだが、これは計画倒れ。これが一つ目の挫折。次に京都に行き、尊王の家柄だからということで、一橋慶喜に仕える。しかし、慶喜が徳川の将軍になったため、自分の思想に反して幕臣になってしまう。そこでフランスに行けという命令を受け、喜んで行くと、その間に幕府がなくなってしまい、犯罪人のような思いで日本に帰ってくる。これも挫折である。しかし、渋沢は挫折を逆用して運命を切り開いていったのである。

渋沢は第一国立銀行を設立し、頭取になっている。晩年には東京高商(後の一橋大学)をつくって、二松学舎の舎長も務めていた。また、複式簿記を日本に定着させたのも渋沢だという。さらに、大蔵省の掛長時代に、十進法を取り入れ、円、銭、厘の呼称を制定した。

渋沢は「論語」を重視した。人を採用する際も、論語を元に決断した。そこで、2章は全て論語について書かれている。3章は老荘の知恵について。4章は日本人への十二戒となっている。

題名から、渋沢栄一の伝記か評伝のようなものだと思ったのだが、その期待は裏切られた。渋沢栄一の人生について述べられているのは1章だけ。もっと本格的な伝記を読みたいと思っていたので、その点では失望させられた本であった。
ラベル:渋沢栄一
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2020年03月14日

織田信長を主人公にした小説です。ちょっと変わった趣向を取り入れ、面白い話に仕上がっています。

「信長の原理」              垣根 涼介
★★★★



織田信長は乳児の頃から癇が強かった。気に入らないことがあれば泣き叫ぶ。成長してもこの性格が変わることはなかった。

子供の頃から、信長は問題児だった。しきたりや世間の常識になじめず、世間がこうだから自分もこうしなければならないのはなぜか、世間の物差しは正しいのかなどと考えていた。

13歳で元服し、15歳で斎藤道三の娘と結婚する。

信長が育った織田弾正忠家では、跡継ぎを巡って信長派と弟、信勝派が対立していた。そんな中、父の信秀が急死する。

たいていの人が知っているように、信長は平時には奇行を繰り返すのだが、戦では評価されていた。家臣に対しても厳しいだけでなく、職務に忠実で懸命に励めば、意外に寛大でもあった。

信長は子供の頃、アリを観察して一生懸命働くのは全体の2割、何となく働くのが6割、怠けるのが2割だという発見をしていた。そして、この分類法は人間にも当てはまった。そこで、戦で全員が必死に働くように、直属の部下を雇って徹底的に訓練したのだ。しかし、その軍勢でも、やはり2:6:2に分かれてしまう。訓練して、サボる2割はいなくなったが、一生懸命戦うのは2割しかいない。そのことにいらだちを覚える信長だった。

しかし、弟の信勝を排除する時には、さすがにためらいがあったようだ。弟を憎んでいたわけではなかった。殺すという決断には心理的ダメージが大きかった。その後、信長は尾張を平定し、勢力を広げていく。有名な今川義元との一戦にも勝利する。

戦には金がかかる、と信長は考える。その軍資金を手に入れるために、干拓をし、田畑を広げ、人がたくさん入ってくるようにしようというのだ。ヒト、モノ、カネを回転させ、商業を発展させて豪商を生み出し、金を蓄える。その思惑通り、尾張は武田家や上杉家とも遜色のない富を得た。

信長が発見した2:6:2の法則には、豊臣秀吉も信長に雇われる前に気づいていた。尾張一国を手に入れた後、信長はたまたまアリの巣を見つけ、ある実験を行う。その結果は、予想通りのものだった。自分の思うとおりにしたいと思う信長だが……。

その後は、誰もが知っているように物語は展開していく。

「光秀の定理」でもそうだったが、この著者の歴史小説は、ちょっと変わった概念を誰もが知る話に取り入れ、ストーリーに変化をつけていることである。それにより、ありきたりの話が魅力的な物語に変わっている。そんな独自の世界観を堪能できる小説だった。
ラベル:小説 垣根涼介
posted by 三毛ネコ at 12:06| Comment(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月07日

ちょっと古い本ですが、十分に伊坂ワールドを堪能できました。

「AX」                   伊坂 幸太郎
★★★★★



連作短編集である。

・AX まず出てくるのが、殺し屋の兜。彼は結婚していて、表向きは文房具メーカーの営業社員として働いている。恐妻家である。もちろん、家族は本業のことは知らない。あるシステムを使って武器を手に入れたり、殺しの仕事を引き受けたりするのだが、その仕組みはうまくできている。兜はある裏の仕事を行うのだが、そこから事態は思わぬ方向に進展し……。タイトルの意味がよく分かる作品である。

・BEE この本に出てくる主人公は全て兜である。エージェントから、スズメバチという殺し屋に命を狙われていることを知る。その一方で、家にはアシナガバチが巣を作っており、駆除する必要がある。その後、巣を作ったのはアシナガバチではなく、スズメバチだったことが明らかになる。さて、兜は両方のスズメバチを撃退できるだろうか?コミカルで笑える短編である。

・Crayon なぜか兜がボルダリングをしている。裏の仕事をしているときにボルダリングの看板を見つけ、やってみようと思ったのだ。そのジムで松田という会社員と知り合った。趣味が同じだけでなく、恐妻家であるところも同じだった。しかも、どちらにも大学受験を控えた子供がいて、同じ高校に通っていた。兜にとってはパパ友だったのだ。しかし殺し屋の兜にそんな平和な日々が続くわけもなく、事件が起こって……。ちょっと切ない気持ちになった。

・EXIT 殺し屋の兜に友人ができた。百貨店の警備員で、名前を奈野村という。兜が営業に行く、文房具店が入っている百貨店に派遣されていたのだ。最初は表面的にしか付き合っていなかったが、だんだん奈野村の話を聞くのが楽しみになった。

そんなある日、兜は奈野村からあることを頼まれる。百貨店での出来事なのだが、そこで物語は意外な展開を見せる。そして最後の短編へと続く。

・FINE 時は経ち、兜の息子、克己は会社員になり、家庭も持った。兜はずっと前に死んでいる。自殺したことになっているのだが、克己が兜の病院の診察券を手に入れたことから、兜の死に不審を抱き、調べ始める。この短編の中で事の真相が明らかになっていく。

殺し屋の話なので、決して気軽なストーリーばかりではないのだが、伊坂作品らしく、深刻なエピソードもさらっと軽く読めてしまう。全ての伏線がつながり、ひとつの物語として完成する。その手腕に改めて感心した小説だった。
ラベル:小説 伊坂幸太郎
posted by 三毛ネコ at 11:33| Comment(0) | エンターテインメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする