★★★★
阪神大震災。日本人なら誰もが忘れることのできないあの大地震から物語は始まる。著者も大阪出身なので、やはり受けたショックは大きかったはずだ。それを消化するために、この小説を書いたのかもしれない。
被災地は一種の極限状態だった。そんな中では、人は何をしてもおかしくない。この小説は決して絵空事ではないのだ。東海地震、東南海地震、南海地震が起きたとき、私たちはどこまで普通にふるまえるか。パニックを起こし、エゴイスティックに行動してもおかしくはない。
著者はこのストーリーから何を伝えたいのだろうか。結局この世は弱肉強食だということか。「白夜行」との関連が取り沙汰されている作品である。白夜行の続編であるとも言われている。確かに、白夜行との共通点が見られる。同じパターンで物語が進行するのだ。美冬(主人公の女性)が言う。「昼間の道を歩こうと思たらあかんよ。あたしらは夜の道を行くしかない」しかし、彼女はそんな道を歩く必要性はない。この女性が裏の道を進む明確な理由がないのだ。そのため、この小説は説得力に欠ける。だが、この作品が白夜行の続編であったとすれば、すべて説明がつく。彼女が普通の人生を歩めない理由も、過去をどんな手を使ってでも隠そうとする理由もはっきりする。たぶん、それが正しい解釈なのだろう。
しかし、著者自身は、続編だと言い切ってはいない。そうでない場合のこの作品の解釈について考えてみた。なぜ「白夜行」と同じような構成であえてこの小説を書いたのか。白夜行は、子供時代にとんでもない経験をし、それに縛られ、引きずって生きざるを得ない男女の話だった。この「幻夜」では、阪神大震災が物語のスタートとなる。著者は、おそらくこの作品を通して震災のショックの大きさを描きたかったのではないか。震災による心の傷はあまりにも大きく、その当事者に裏の道を歩ませるほどだったと。だからこそ、白夜行と同じパターンでこの小説を書いたのだ。彼は作家だ。そして、作家にとって最もうまく自分の思いを表現できるのは、当たり前だがその作品である。関西人である著者にとって、あの震災のショックは大きすぎたのかもしれない。それを何とか自分の中で消化し、乗り越えるためにこの作品を書いたとも考えられる。
また、この作品は美冬の表の面だけを見れば、震災をきっかけにしてチャンスをつかみ、成功していく一種のサクセス・ストーリーと言えなくもない。著者はそうやって被災者にエールを送りたかったのではないだろうか。震災をひとつの発奮材料としてもう一度がんばってほしいとのメッセージである。
続編であるかどうかはともかく、この作品の前に、やはり白夜行を先に読んでおいたほうがいいだろう。
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