2016年02月28日

村上春樹は、むずかしい

「村上春樹は、むずかしい」                   加藤 典洋
★★★★★



題名に惹かれた。確かに、村上春樹は難しい。数冊読んだことがあるが、読後も何がテーマなのか、さっぱり分からなかった。何を書きたいのか。何を伝えたいのか。それがどうしても読み取れないのだ。文体は平易だが、そこに込められた思いを解読するのは非常に難しい。

第1部から、「村上春樹はなぜ芥川賞を取れなかったのか」という、ファンならずとも興味津々の分析がある。村上の処女作「風の歌を聴け」は候補にはなったが、「もう1作読まないと、心細い」、「作品の結晶度が低いところがある」などと評され、受賞はならなかった。そして、2作目の「1973年のピンボール」も、好評だったのだが、結局芥川賞は取れなかった。今になってみれば、当時の選考委員は「なぜあの時に芥川賞を与えておかなかったのか」と後悔していることだろう(大部分の委員はもう亡くなっているが)。

そして、村上作品の分析がなされていく。私のような平凡な読者には、一読しただけでは分かるはずのない、説得力のある、きちんとした分析である。

たとえば、処女作「風の歌を聴け」は「肯定性を肯定している」と言う。逆に言えば「否定性を否定している」。国家や富者、権力や権威を否定することが「否定性」である。近代文学はこの「否定性」の一点でつながっているが、「風の歌を聴け」はその「否定性」への文学の依存を断ち切ろうとした、戦後初の作品だったと著者は分析している。

私が以前読んだ小説「アフターダーク」についての言及もある。著者によれば、この小説は中国へのオマージュめいた作品でもあるという。この小説が書かれた時期には、北京オリンピック開催が決まり、中国ブームが起こっていた。「アフターダーク」の主人公は中国へ行こうとしている。そういう設定にしたのは、前述のような時代背景があったためらしい。

この著者にかかると、すべての村上作品がしっかりと、納得できる形で読み解かれていく。村上春樹が「ここまで考えて一連の作品を書いていたのか」、「あの作品にはこんな意味が隠れていたのか」などということに気づく。なかなか面白い分析だし、自分の純文学に対する読解力の低さを痛感せざるを得ない。文学の世界もなかなか奥深いようである。
posted by 三毛ネコ at 15:51| Comment(0) | TrackBack(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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