2008年02月10日

半島を出よ

「半島を出よ」               村上 龍
★★★★





村上龍の小説の特徴として、その多くの作品にはマイノリティー(少数派)の人々が出てくる。それは、村上自身がマイノリティーだからかもしれない。彼自身が言っていることだが、村上は学生時代から「(平凡には生きられないという意味で)お前は絶対サラリーマンにはなれない」と言われていたようだ。美大に進学したのもその理由のためらしい。そんな村上だからこそ、マイノリティーの視点に立った小説が書けるのかもしれない。しかし、彼のマイノリティーに対する視点はいつも冷たく、鋭い。ときには残酷ですらある。村上は、そこから何を私たちに伝えようとしているのだろうか。その現実社会に対するシビアな視線には、薄ら寒さを覚えると同時に、その世界観に目を向けずにはいられない。

あらすじは、まず北朝鮮である計画が立てられる。その計画とは、福岡を占領するというものだった。立ち向かうのは、たった10数人の少年たちのみ。しかも、彼らはみな、暗い過去を持ち、心に傷を負っていた…

まず、巻末の参考文献の多さに驚かされる。「愛と幻想のファシズム」の時は500冊もの経済書を読んだそうだが、この小説も膨大な量の本を参考にして、緻密に構成されている。文学というよりは、完全なエンターテインメントである。

読み進むにつれ、日本という国のシステムの問題点が鮮明に浮かび上がってくる。経済の破綻、防衛システムの欠陥、有事体制の甘さなど。

心に傷を持つ少年たちだけが福岡を救おうとするというのは、日本の現在のシステムを破壊し、新たな道を提示できるのは政治家でも官僚でもなく、マイノリティーだけだということを暗に示唆しているように思える。特定の登場人物(少年たち、重犯罪人)をカタカナで表示したのは、彼らが一般大衆とは異なるマイノリティーなのだということを強調したかったのだろう。

心に深い傷を負った少年たちは、北朝鮮の兵士たちと戦うために協力しあう。その中で、自分の心の傷と向き合い、解消できる者もいる。彼らにとって、北朝鮮軍と戦うことは、一種の「いやし」だったのかもしれない。そこで彼らはおのれ自身の中にある破壊欲求を満たすことができ、普通の人間に戻ることができたのではないだろうか。

いろいろなことを考えさせられる本である。もちろん、単なる読み物としても十分に面白い。
posted by 三毛ネコ at 14:50| Comment(2) | TrackBack(0) | 純文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なるほど。マイノリティに対する村上龍の視点ってのは気が付きませんでした。今の龍がマイノリティだとは全然思わないけど、かつての自分がそうだったことをずっと忘れないできるからこそ、ああいう小説が書けるのかもなあ…。
Posted by Y.HAGA at 2008年02月13日 07:42
コメント、ありがとうございます。村上は、今でもマイノリティーとしての感覚を持ち続けているんだと思います。この小説には、それがよく表れています。

Posted by 三毛ネコ at 2008年02月13日 13:46
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