2016年12月27日

マスカレード・ホテル

「マスカレード・ホテル」                  東野 圭吾
★★★★



連続殺人事件。共通点は、現場に残された暗号のみ。このホテルで次に誰かが殺される-そんな設定。探偵コンビの誕生でもある。一人はホテルのフロントクラーク、山岸尚美。もう一人は切れ者の刑事、新田浩介。

ホテルにはいろいろな客が来て、様々な出来事が起こる。そんなことを繰り返しながらホテルの業務は成り立っているのだ。

そんな仕事をこなしながら、新田、尚美のコンビは真相に迫ろうとする。しあkし、フィクションとはいえ、取材に基づいているはずなので、実に様々な客がいるものだ、と思わされる。クレームをつける者、浮気現場を押さえようとする者…などいろいろな人間模様が描かれる。

天空の蜂などに比べると、そんなにスケールの大きい小説ではない。しかし、それが悪いわけでもない。小さい事件を解決すると、そこから本筋の事件への糸口が見つかったりする。そんな風にして話は進んでいく。事の真相が見えたと思ったら、さすが東野圭吾、真相はさらにその先にある。

意外性はあり、構成もうまく、犯行の動機も納得できるものである。刑事新田のホテルマン役になじんでいくところも、読んでいてすがすがしい。ホテル業務と刑事事件を上手に結びつけたミステリーである。なかなか楽しませてくれる作品だ。
ラベル:東野圭吾 小説
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2016年10月03日

パラレルワールド・ラブストーリー

「パラレルワールド・ラブストーリー」               東野 圭吾
★★★★★



パラレルワールド。決して交わることのない2つの世界。そんな中で物語は進行する。いや、正確に言えば2つの世界はほんの少しずつ、交わるのだ。そして、2つの世界には何か関連があるらしいことが分かってくる。不審な点も次々出てくる。いったい、真相はどこにあるのか?

少し変わった設定ではあるが、面白いミステリーになっている。主人公たち3人は複雑な関係になってしまう。そして描かれる2つの世界。その2つがつながったとき、そこには衝撃的な真相が−。

友情と恋愛、どちらを取るか。と書くと、古臭いテーマのようだが、さすがに東野圭吾。理系の専門知識を生かした設定で、うまくこの古くからあるテーマを料理している。私の好みで言えばあまり人間ドラマに興味はなく、ミステリーの真相にだけ関心があるのだが、やはり読者が魅かれるのは普遍的な人間模様なのだろう。そういう意味でも、この作品は十分に読み応えのあるものになっている。

私たちは自分の記憶を強固なものだと思っているが、実際はかなりあやふやなものでしかないのだ。そんな不安定な記憶の世界をこの作品は描き出している。私たちは過去の記憶に基づいて生きている。もし記憶がなければ、何もできなくなってしまうだろう。記憶こそがわれわれを形作っているものなのだ。そんなことを再認識させられた小説であった。

ラストの智彦(主人公の親友)の手紙は感動的だ。それには親友への友情と自分の責任を全うしようとする思いがあふれている。それはこのストーリーを読んできた読者の心を動かさずにはおかないだろう。またひとつ、私の好きな作品が増えた。
ラベル:小説 東野圭吾
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2016年07月20日

白銀ジャック

「白銀ジャック」                       東野 圭吾
★★★★



スキー場に爆発物!人質は客全員。犯人は身代金を要求している。

まったく無駄がなく、テンポよく話が進んでいく。エンターテインメントにおいて、読みやすさというのは大事な要素である。

同著者の「ちゃれんじ?」を以前読んだのだが、その内容では、作者はかなりスノボにのめりこんでいる。その体験が十分に生かされた小説だ。というより、たぶんその経験の中で考え出したストーリーなのだろう。

余談だが、作中に出てくるスノーボードクロスという競技はダイナミックでなかなか面白い。最近のオリンピックで正式種目となったらしい。一度観戦してみる価値はある。

私にも少しだけスノボの経験があるが、この作品はスキーやスノーボードがミステリーの要素とうまく合わさって、スラスラと読めるようになっている。

分かりやすい動機がある。容疑者もいる。しかし、あの東野圭吾がそんな分かりやすい真相を用意するはずがない。このミステリーの真相を見抜くことはたぶん無理だろう。果たして犯人は誰なのか。その目的は?

どうぞ、存分に東野ワールドを堪能していただきたい。
ラベル:東野圭吾 小説
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2015年12月01日

金のゆりかご

「金のゆりかご」                           北川 歩美
★★★★



早期教育。親なら誰もが一度はわが子にやってみたいと思うことだろう。この本のテーマはずばり,「早期教育は天才を作るか?」ということである。

天才かどうかを見極めるのに,よくIQを使う。IQ140以上がいわゆる天才とされている。しかし,アメリカの科学者がIQ200以上の天才児のその後を追ったところ,彼らは社会的に成功しているとは言い難かった。もちろん頭はいいので,いい大学には入れる。しかし,IQで対応できるのはそこまでである。大学院や実際の仕事で業績を残すには,創造力や対人関係能力が必要になってくる。これらはIQテストで測ることはできない。IQと成功とは必ずしも結びつかないのだ。それに,IQにはもう一つ問題がある。IQは精神年齢/実年齢×100ではじき出される。しかし,この式が意味するのは,10歳で20歳の人間並みの思考や精神活動ができればIQが200だということである。しかし,年齢が上がっていくとどうなるだろうか。たとえば45歳で90歳並みの精神年齢だとすれば,人はその人を頭がいいとは言わない。ボケているか,頭の働きが鈍いと判断する。従って,IQはせいぜい20代前半までしか指標として使えない。

さて,本書である。天才を作る研究機関,GCS。一見,順調に天才児を作っているように見える。しかし,その裏には大きな秘密を抱えていた…という,ミステリーの王道を行くような作品ではある。しかし,真相は,早期教育の是非から少しずれているため,ちょっと期待外れ。しかし,脳科学を切り口にしたミステリー小説になっており,楽しめた。命の重さ,天才とそうでない者との差別,そんなことを考えさせられる小説である。教育には正しい「型」などないのだ−改めてそう思う。しかし,最後のほうになって,話は複雑になる。殺人も起こる。そして,予想もつかない真相が明らかにされる。すべてを知った時,私は感心した。恐るべき計画である。真犯人によって操られる主人公たち。文句なしに面白い。
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2014年07月01日

生存者ゼロ

「生存者ゼロ」                         安生 正
★★★★




日本の石油基地。そこで人が死んだ。原因は不明。病原菌だろうか。

この手の話ですぐに思い出したのが天才クライトンの「アンドロメダ病原体」である。こちらも面白いのでぜひご一読を。

唯一、問題を解決できそうな専門家がいるのだが、周囲との摩擦や別の問題からそれもままならない。人間社会の複雑さを思わされる。専門家でないにもかかわらず、事件を解決する使命を負わされた者もいる。政治家は全く当てにならない。そして自体はますます悪化していく。ある人物により、真相は分かるのだが、原因は考えもしなかった意外なものである。それが分かるまで一気に読ませる筆力も見事なものだ。さらに読んでいくと、事はもっと深刻であることが分かる。果たして、ヒトは生き残れるだろうか?この災厄から。答えはこの本にある。

最後まで一気に読める面白さだ。巻末の参考文献の専門知識とエンターテインメント的要素をうまく結びつけているところは、クライトンにも劣らない。もっとこの著者の作品が読みたくなる、そんなデビュー作である。
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2013年01月02日

Master of the Game

「Master of the Game」 Sydney Sheldon
★★★★




キンドルを使って英語で読んだ初めての本。まあまあ面白かった。最初は一攫千金の話で読者を引きつけ,その後もちょっと冗長な展開になりそうなところで何か事件が起きるのである。読者を飽きさせない工夫がされている。

私は英検1級の勉強をしているときに1級レベルの単語集3冊を暗記したのだが,この本を読んでいると,ところどころに1級の勉強の時に覚えた単語が出てくるのだ。1級の単語は難しすぎるといった話を聞くが,全然そんなことはないと思う。ペーパーバックの入門書と言われるシドニー・シェルダンの作品でさえ1級レベルの単語がけっこう使われているのだから,もっとレベルの高い本になれば1級を超える語彙が必要になるだろう。

この本を皮切りに,これからもどんどんキンドルでペーパーバックを読んでいきたいと思う。
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2012年02月20日

鳥人計画

「鳥人計画」                          東野 圭吾
★★★★★




傑作である。私はこの本にたまたま出会って東野さんのファンになった。彼が人気作家になる前から,多くの作品を読んできた。このような普通の推理小説ではない,ちょっとひねったミステリーを読んだのはこの本が初めてだった。それだけに強烈に印象に残った。今でもまだその「計画」をはっきりと覚えているぐらいである。いつかはこの作品についてもレビューを書かねばと思っていたが,ようやくその機会が巡ってきた。

スキーのジャンプ競技を主な舞台にして物語は展開していく。スキージャンプの選手たちの不自然な失敗ジャンプ。そしてあるジャンパーの不審死―その死は殺人だった。

私の記憶では,この小説に殺人の要素はないと思っていたのだが,やはりそこは乱歩賞作家,ちゃんと殺人も組み込んである。

スキージャンプ競技の話なので,登場人物のジャンプを分析したグラフなども出てくるのだが,分かりやすく説明してあるので,読みにくいというほどではない。この作品をよりリアルに感じさせる小道具となっている。

二度読んでも,やはり面白い。殺人事件の謎とある「計画」の謎が並行して描かれていく。その組み合わせ方などが上手い。ぐいぐい読ませる力がある。なぜこの作品が文学賞をとらなかったのか不思議なくらいだ。

恐るべき計画と殺人事件の謎が結びつき,事件の真相が明らかになる。そのとき,読者は間違いなく感心するだろう。その緻密な構成に。だいたいの東野作品は読んだが,やはりこの小説は一番のお気に入りである。
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2012年01月05日

片思い

「片思い」                         東野 圭吾
★★★★




久しぶりに会った元アメフト部の女子マネージャーは男の姿になっていた。驚く主人公。アメフトをモチーフとしてかつての仲間同士の思い出や友情が語られる。

性同一性障害。それがこの小説のテーマである。ストーリーの中で登場人物が言う。男と女の扱いが同じならこの障害の人間も手術を受ける必要はないというのである。しかし,これはちょっと違うと感じる。この考えは,いわゆるジェンダー(文化的に作られた性)というものである。それが厳然として存在するのも事実だ。しかし私は,男女の性差とは生まれつきの身体や脳などの作りの違いからくるものだと思う。例えば,男性と女性の脳には明らかな違いがある。左脳と右脳をつなぐ脳幹という部分で,女性のほうが男性より明らかに幅が広いのである。そのため,女性は男性より左脳と右脳をうまく連携させて使うことができるらしい。そして,この障害の男性の脳は女性に近いことも分かっている。だとすれば,性同一性障害の人の悩みは,ホルモン剤や手術によってのみ解決できる物理的なものであり,ジェンダーとは関係がないはずなのだ。

人間には優越感がある。もちろん劣等感もある。どちらも,人間が本来持っている性質からくるものだ。人と比べるのが人間の性である。身体的,精神的な違いを見分け,人によって違った扱いをする―それは,人間の本性だと思う。それを変えて男女を完全に平等にしようとするジェンダー論は,ちょっと無理がある。確かに,男女の違いを取り払う努力は必要だろう。しかし,それは性同一性障害の解決にはならない。

障害をテーマにした重い作品でありながら,同時に優れた読み物にもなっている。さすが東野圭吾,と言うしかない作品である。
ラベル:東野圭吾 小説
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2011年07月17日

真夏の方程式

「真夏の方程式」                         東野 圭吾
★★★★★




ガリレオシリーズの最新刊ということで,楽しみにしていた。警視庁の元刑事が死んだ。死因ははっきりしない。たまたま同じ宿に泊まっていた湯川はその出来事の解明に乗り出す。

おなじみの草薙,内海薫ももちろん出てくる。

物語の中で,湯川は言う。「人類が正しい道を進むためには,この世界がどうなっているのかを教えてくれる詳しい地図が必要だ。」それが不完全だから戦争もなくならないと。しかし,私にはそうは思えない。科学が今まで何をしてきたか。原爆を作り,地球温暖化を促進し,さまざまな生物を絶滅に追いやってきた。そして,人類は相変わらず戦争を繰り返している。科学が戦争を終わらせることができるとはとても思えない。むしろ,歴史を徹底的に学んだほうが,ずっと世界は平和に近づくだろう。「歴史は繰り返す」のだから。

ガリレオシリーズらしく,科学的な現象の説明が散りばめられていて,雰囲気をこのシリーズらしくしている。

ストーリーの中に,「容疑者Xの献身」のことを匂わせる会話がある。ファンにとっては,思わずにやりとさせられる場面である。

科学的なトリックや仕掛けを湯川が理系の専門知識を生かして見破る,というのがガリレオシリーズの読みどころなのだが,この物語では後半までそれらしき場面は出てこない。真相は確かに科学的な犯罪といえなくもないが,それよりもむしろ,親子の愛などにもとづく人間ドラマに重点が置かれている。作品としては,むしろ「容疑者Xの献身」に近い。従来の短編読み切りのガリレオとは一線を画している。感動まではしなかったが,名作といっていいと思う。読んでみる価値のある小説だ。
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2011年05月15日

メルトダウン

「メルトダウン」                      高島 哲夫
★★★★




いきなり,提示される謎。カリフォルニアの地方新聞社に,封筒が送られてくる。中には意味不明の図形が。それは新種の核爆弾の設計図だった。手紙を受け取った新聞記者は,その相手に会いに行く。そして,その図面は新聞で公開される。一方,ワシントンDCで大統領補佐官が死体で発見される。一見,自殺のようだが,それには不審な点が多すぎた。果たして,この物語の結末は…

この作品の中で,科学者が原爆実験をして「その感動に打ち震えた」,また「偉大な爆発」と記されている。著者は工学部卒であり,また原子力研究所に勤めていたので,この表現は科学者皆が抱く普遍的な感覚ではないかと思う。しかし,大量の人を殺す兵器を作っておいて,感動するなどというのは一般人の感覚からはかけ離れている。それが科学者の,ひいては科学の抱える問題ではないかと思うのだ。その研究が危険であっても,科学的なブレークスルーであれば,科学者はその研究の完成を望む。以前,科学は転がる石のようなものだと書いた。やはりそれは正しいと言わざるを得ない。科学者が上述のような感覚を持ち続ける限り,科学は人類にとって常に脅威であり続けるだろう。

最初はもっとスケールの大きな話だと思って読み始めたのだが,意外とちゃちだった。しかし,さすがにプロの作家,最後まで読ませる力は持っている。

ワシントンDCで起きた殺人事件と,カリフォルニアの地方新聞の記事をめぐる出来事。一見無関係な二つの出来事が交錯するとき,大規模な陰謀が明らかになる。真相はそれまで読んできた読者を十分に納得させられるものとなっている。私は,原発をめぐるクライム・ノベルかサスペンスのようなものを期待して読んだので,少しがっかりしたのだが,この展開も悪くはない。それなりに楽しめる。文学賞を取ったのにも納得がいく。これくらいの謎解きを用意しないと文学賞など取れないのだなと感じさせられた。



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2011年02月13日

パラレルワールド・ラブストーリー

「パラレルワールド・ラブストーリー」              東野 圭吾




パラレルワールド。決して交わることのない2つの世界。そんな中で物語は進行する。いや、正確に言えば2つの世界はほんの少しずつ、交わるのだ。そして、2つの世界には何か関連があるらしいことが分かってくる。不審な点も次々出てくる。いったい、真相はどこにあるのか?

少し変わった設定ではあるが、面白いミステリーになっている。主人公たち3人は複雑な関係になってしまう。そして描かれる2つの世界。その2つがつながったとき、そこには衝撃的な真相が−。

友情と恋愛、どちらを取るか。と書くと、古臭いテーマのようだが、さすがに東野圭吾。理系の専門知識を生かした設定で、うまくこの古くからあるテーマを料理している。私の好みで言えばあまり人間ドラマに興味はなく、ミステリーの真相だけ関心があるのだが、やはり読者が魅かれるのは普遍的な人間模様なのだろう。そういう意味でも、この作品は十分に読み応えのあるものになっている。

私たちは自分の記憶を強固なものだと思っているが、実際はかなりあやふやなものでしかないのだ。そんな不安定な記憶の世界をこの作品は描き出している。私たちは過去の記憶に基づいて生きている。もし記憶がなければ、何もできなくなってしまうだろう。記憶こそがわれわれを形作っているものなのだ。そんなことを再認識させられた小説であった。

ラストの智彦(主人公の親友)の手紙は感動的である。それには親友への友情と自分の責任を全うしようとする思いがあふれている。それはこのストーリーを読んできた読者の心を動かさずにはおかないだろう。またひとつ、私の好きな作品が増えた。





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2010年04月27日

新参者

「新参者」                 東野 圭吾
★★★★




ドラマ化されて放送中なので、知っている人も多いだろう。

最初は短編集かと思ったのだが、そうではなく、一つの殺人事件を軸として、その捜査をする加賀恭一郎が現れるちょっとした謎を次々と解いていくという設定である。新趣向だ。加賀が解き明かしていく謎は、ハートウォーミングなエピソードばかりである。ミステリーといえば大体が殺人事件で、人情話とは縁が薄い。もちろんこの作品も殺人事件の捜査が基本なのだが、それぞれの章では、少しホッとさせてくれる話が続く。殺伐とした事件の捜査に潤いを与えてくれる。

ミステリーとしては、特別に優れているとはいえない。ミステリーというよりは、人情がメインテーマになっているからだ。しかし、こういう小説も悪くない、と感じさせる作品ではある。

加賀が言う。「事件によって心が傷つけられた人がいるのなら、その人も被害者だ。そういう人を救うのも、刑事の役目です」加賀の人間性、仕事に対する姿勢が最もよく表れたセリフである。たとえ小説の中で脇役に過ぎない人物でも、その当人にとっては、その人生はかけがえのないものなのだ。そんなことを伝えようとする試みだったのだろう。

事件が終わった、と思われた後、ちょっとしたエピソードがあるのだが、それも人情味を感じさせる。どこまでも温かい物語である。





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2010年03月29日

イントゥルーダー

「イントゥルーダー」          高嶋 哲夫
★★★★




主人公は羽嶋。息子がひき逃げに遭い、意識不明の重体になる。しかし、その事故には不審な点が…羽嶋は事故の手がかりを得るため奔走する。はたして真相は?

作中で、原発についての議論がある。作者は、元原子力研究所の研究員だっただけに、原発については人よりも深く考えていたのだろう。作中では、賛成派と反対派の意見が記されている。それを読んで感じたのは、しばらくの間は原発を使う必要があるということだ。原発は確かに絶対安全ではない。しかし、少なくともCO2を出さないエネルギー源であることは確かだ。オバマのグリーン・ニューディール政策もまだ実行されていない。それまでの過渡期の主要エネルギー源として、原子力は有効だと思われる。その後はどうするのか?心配無用、日本にそれを解決できるテクノロジーがある。以前紹介した「マグネシウム文明論」がそれである。マグネシウムを海水から取り出してエネルギーとして使うこの技術は、世界中に普及すれば一気にCO2排出量を70%ぐらい削減できるだろう。それぐらい画期的なテクノロジーである。近い将来、マグネシウムを燃やして電気を作り、マグネシウム電池車に乗ることになるだろう。それまでのつなぎとして原子力発電は続ける必要がある。

覚せい剤、ダンプによる事故、原発…伏線らしきものが張られ、何か大きなものがその背後にあることを感じさせる。ミステリーの王道と言ってもよい。その真相が明らかになったとき、この本が賞を取った理由が分かった。途中までは、あまり夢中になって読めず、もっとコンピューターの(主人公はコンピューター・エンジニア)部分を中心に、クライム・ノベル風にしたほうが面白いなどと思ったのだが、やはり賞を取る作品は違う。きちんとどんでん返しもあり、真相を見抜ける読者はまずいないだろう。この物語のハイライトは最後の20ページぐらいにある。それまでは退屈な場面もあるが、我慢して読む価値はある。ラストが単純な大団円でないところも気に入った。




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2009年11月08日

浪花少年探偵団

「浪花少年探偵団」            東野 圭吾
★★★★




主人公は小学校の教師。悪ガキ達をなんとかまとめて指導しながら日々を送っている。そんな彼女の周りに次々と事件が起こる。彼女は持ち前の行動力と推理で事件を解決に導く。刑事の助けも借りながら。…と言っても、全然本格ミステリーなどではない。舞台は大阪。当然関西弁で物語は進行していき、ユーモアも交えられている。私は関西人だが、大阪府大出身の知人がいるので、南海高野線中もず駅などというローカルな地名が出てきたときは親しみを覚えた。大阪の雰囲気もよく出ている。さすがに著者は大阪出身だけあって、大阪人や街の様子もよく描けている。

ただ、気になるのは登場人物の使う関西弁。関西らしさを出そうとしているのは分かるのだが、現代人なら使わないような言い回しがある。たとえば、「しょうむない(つまらない)」という言葉。正しくはしょう「も」ないである。また、「ほんまでっせ」という言い方。こんな言い回しは年寄りかお笑い芸人でなければ使わない。特に最近の若者は、標準語に近付いており、アクセントだけが関西弁というように変わってきている。

この小説のコンセプトは、著者の地元である大阪を舞台に、笑いを取り入れた赤川次郎のようなユーモア・ミステリーを書こうとしているのだと思われる。その試みは、関西人の私から見ても見事に成功している。もう少し、ユーモアの要素が強くてもいいだろうという感じはするが。なかなか楽しめる作品ではある。




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2009年08月16日

真夜中の神話

「真夜中の神話」              真保 裕一
★★★★




主人公は晃子。元は薬学の研究者である。夫と子供の死に責任を感じて研究をやめたのだ。彼女はインドネシアに旅行中、飛行機事故に遭い、奇跡的に助かる。ある村で治療を受けて助かったのである。しかし、その村には、ある秘密が…

ミュージックセラピーなどのいわゆる「いやし」、吸血鬼伝説など興味深いキーワードで読者を引きつける。一種のミステリーと言っていいだろう。また、吸血鬼のルーツや、イルカセラピーの内容など、新しい知識も得られる。

そして物語は意外な方向へと進む。クリスチャンである私には受け入れがたい方向へと。ヒントは、イルカセラピー、ヒーリング、聖人たちである。これ以上はネタバレになるので書けない。

ヒーリングの秘密、迫り来る追手の謎。そんな事柄がこのストーリーの臨場感を高めている。

聖人たちの「いやし」について、フィクションではあるが、驚くべき事実が明らかになる。もしこれが公になれば、既存の宗教は大きなダメージを受けるだろう。当然、それを邪魔する者も出てくる。この本の仮説を否定するつもりはない。しかし、それは一部の宗教家に当てはまることであって、キリスト教には該当しない。なぜなら、キリストが行ったのは単なる「いやし」ではないからだ。彼は数々の奇跡を行っている。水の上を歩いたり、たった二切れのパンを分けて1000人以上の人々が満腹したり、死後よみがえって多くの人々の前に姿を現した。これは明らかにこの小説の「いやし」を超えている。神の子にしかできない技である。

しかし、この仮説自体は面白い。それで説明のつく奇跡もいくつかはある。もし実際にこの仮説が正しければ、私たちは医療のやり方を変えなければならないだろう。医療を、そして医学のあり方をも変えてしまう仮説である。

構成もしっかりしており、最後まで飽きずに読ませてくれる。エンターテインメントとしての読みごたえは十分。あなたの読書リストに付け加える価値のある一冊。




ラベル:真保裕一 小説
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2009年07月19日

密告

「密告」                  真保 裕一
★★★




主人公は警官。かつては射撃でオリンピックを目指したが、その夢もかなわず、普通の公務員のように内勤をしている。彼は射撃をしていたときに、ライバルを蹴落とすためにある「密告」をした。そして、それから8年経った今、また同じ相手に対して密告をしたと疑われている…

著者が描く主人公の中には、あまり立派なヒーローとは言えない人物がいる。「連鎖」がそうだったし、この作品もまた然り。あまり応援する気にはなれないのだが、一般人に近いぶん、親しみやすく、感情移入しやすいのかもしれない。

この作家には少し作品によって当たりはずれがあるのだが、この小説はどちらかと言えば”当たり”である。興味深い話で読者を引きつけ、提示された謎で最後まで読ませる。パターンとしては、処女作の連鎖に近い。

密告の謎を突きとめようとして、主人公は行動するが、そこには予想以上の障害が待ち構えていた。果たして、事の真相は…か細い手がかりが少しずつふくらみ、確かな証拠となって「密告」の全貌が明らかになる。確かに、構成は魅力的だし、いい作品だとは思うのだが、肝心の真相が意外とちゃちで、とても読者を納得させられるものではない。はっきり言って拍子抜けである。その謎を知りたくて読者はこの小説を読み進めるのである。もっと誰も考えつかないような真相を用意してほしかった。

それでも、ラストは緊迫感あふれるアクション・シーンがあり、一応読者を満足させてくれる。作者は、こういったシーンの描写となると、本当にうまい。しかし、全体としての評価は、星3つといったところであろう。





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2009年05月31日

学生街の殺人

「学生街の殺人」              東野 圭吾
★★★★




舞台は、かつては学生でにぎわっていたが、今はさびれてしまったとある大学のそばの学生街。ある男が殺される。第一の殺人は学生向けの安アパートで。凶器はナイフ。そして、その事件が解決しないうちに、第二の殺人が。凶器はまたもナイフである。被害者に接点はないように見える。いったい犯人は誰なのか。そしてその動機は…しかも、第二の殺人は密室で起こる。

この作品が発表されたのが1987年。高度成長期の真っ只中である。作中である人物が言う。将来やりたいこともなく大学に入り、卒業していく人間がほとんどである。そういう人はたいてい指示待ち人間で、ロクな仕事ができないと。そういう人間はいずれ機械に取って代わられるという。本当に取って代わられるかはともかく、この言葉は私の心に引っかかる。1987年といえば、バブルで日本が好景気だった時で、当然就職率も最高だったはずだ。企業は規模を拡大し、指示待ち人間でもいいからどんどん採用した。今から考えると何ともうらやましい時代である。しかし、現在必要とされるのは、大卒なら技能として英語とコンピュータを使いこなせ、さらに専門知識を身につけた人材らしい。もちろん、自分で考えて動くことが求められるのは言うまでもない。ここまでコンピュータが浸透してくると、作中の言葉もまんざら嘘ではなさそうだ。これから大学を目指す人には、ぜひ高い目的意識を持って、充実した学生生活を送ってもらいたいと願う。

小説のほうは、ついに、第三の殺人まで起きてしまう。作者はどう事件を解決するのかという疑問が出てくる。もちろん、最後にはちゃんと密室のトリックも解け、事件は解決する…と思われる。しかし、物語はそこでは終わらない。もう一波乱あるのだ。初期の作品ではあるが、十分に東野圭吾らしさが出ている小説である。単なる謎解きミステリーではなく、人物がよく描けている。ファンとしては、初期の作品を読むことで彼の成長ぶりや、テーマの変化などが分かって楽しめる。この作品のカギは最終章にある。謎解きが終わったからといって読み飛ばさないように。




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2009年03月29日

どちらかが彼女を殺した

「どちらかが彼女を殺した」           東野 圭吾
★★★




シンプルな推理小説である。容疑者は二人。ある女性が殺され、その親友と元恋人が容疑者となる。男と女。どちらにも動機はある。そして、犯人を見つける手がかりとなる物証も提示される。真犯人はどちらか。

私はこの本を読んで、アガサ・クリスティーの「ひらいたトランプ」を思い出した。おなじみ、名探偵エルキュール・ポアロが活躍する。ある部屋で、一人の男が殺される。容疑者はたった4人。トランプのブリッジをやっていた人々が容疑者となる。ポアロは、そのブリッジの記録を見て、その進行の仕方から人々の心理を読み、見事に真犯人を見つけ出す。状況や推理の仕方は違うが、的確で論理的な推理によって読者が真犯人にたどり着けるという点では共通するものがある。また、「ひらいたトランプ」で容疑者を少なくしたのは、読者に対する挑戦だと思われる。ずばりと真犯人を当ててみろと。この小説もまた、読者に挑戦している。

驚いたことに、最後まで犯人の名は明かされない。推理のためのヒントは巻末にあるが、それがなければ犯人を当てることは難しいだろう。上質のフーダニットと言える。



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2009年02月22日

夜明けの街で

「夜明けの街で」              東野 圭吾
★★★




中年で妻子持ちのサラリーマンが、同僚の女性と関係を持つ。しかも彼女は、殺人事件の容疑者になってしまう。

不倫などすべきではない―そんなことはみんな分かっている。しかし、している当人たちは真剣なのだ。世界には、いろいろな形の夫婦がある。一夫多妻制もそのひとつだ。女性はどうか知らないが、少なくとも男は同時に複数の女性を愛することができるのだろう。不倫。その意味は、道徳から外れることらしい。しかし、部外者がそれを責められるだろうか。万引き、自転車泥棒、キセル乗車…すべて犯罪であり、道徳から外れる行為だが、たいていの人は、1回ぐらいしたことがあるのではないだろうか。また、キリスト教では悪事を行わなくても、そのことを考えるだけで罪になると主張する。ならば、われわれはすべて罪人であり、不倫をしている人間を非難することなどできない。問題はただひとつ、周りの人間を傷つけてしまうということだ。

人はどこまで人を愛せるのか―この作品の投げかける問いは、根源的で、重い。親子の愛や、夫婦の愛とはまた違う。不倫の愛。社会的に許されないことだけに、よけいにその愛情は強いのかもしれない。しかし、その相手が殺人事件の容疑者だとしたら、それでも愛し続けることができるだろうか。著者は問い続ける。

東野作品らしく、ラストにはちょっとした仕掛けがされている。ただし、それが読者を満足させるかどうかは疑問であるが。
ラベル:東野圭吾 小説
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2009年02月01日

連鎖

「連鎖」                  真保 裕一
★★★★




主人公は、検疫所で働く公務員。食品Gメンである。友人の妻と浮気をし、その友人が自殺未遂を起こす。しかし、彼の行動には不審な点があった。そして、彼はジャーナリストでもあり、その取材内容とのつながりも考えられる。果たして、真相は…

問題となるのは、放射能汚染された食物が日本に輸入されていたことである。牛肉やオレンジの輸入自由化の前の話だ。米国産の食品についてはいろいろ悪いうわさがある。アメリカ産の牛肉にはホルモン剤が含まれており、食べた男性が女性化したという話を聞いた。また、輸入が自由化された当初のオレンジにはOPPやTBZという発がん性物質が使われており、とても食べられるようなシロモノではなかった。日本という国は、国民の体のことなどちっとも考えてはいない。

この作品で描かれる主人公は、決してカッコいいヒーローなどではない。事件の真相を知ろうとするのも、友達の妻と浮気をした後ろめたさからだ。かなりマイナスの動機である。しかし、それでも徒手空拳で大がかりな犯罪に立ち向かっていく姿を応援せずにはいられない。勇気とは、必ずしも立派な動機から生まれるものではない。この作品は、「小役人シリーズ」と名づけられている。地位も特殊な技能もなく、一介の公務員にすぎない主人公が、ヤクザに脅されたりしながら真相に迫っていく。そこに読者は等身大の自分を見て、彼に自身を投影し、主人公に感情移入していくのではないだろうか。

江戸川乱歩賞受賞作といっても、中にはその名に値しないと思えるような作品もある。しかし、この小説は、デビュー作ながら、しっかりとどんでん返しもあり、しかも話が2転、3転する。十分に乱歩賞に見合うだけの作品になっている。
posted by 三毛ネコ at 13:23| Comment(5) | TrackBack(0) | ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする