2008年09月28日

ホワイトアウト

「ホワイトアウト」            真保 裕一
★★★★★



舞台は雪の降りしきるダム。ある日、そこが銃を持った男たちに占拠される。

私は、映画のほうを先に観ていた。それも面白かったが、原作もやはり面白い。同著者の「奇跡の人」を読んで、この作家の実力が分かった。作風も気に入った。綿密な取材に基づいて描かれた、スリルに富んだ小説である。

これを読むと、日本人の危機管理の甘さがよく分かる。日本は、安全が当たり前という社会なのだ。そんな平和ボケした私たちに、この本は活を入れてくれる。

犯人たちとの息詰まる戦い。緊張感が文章から感じられる。伊坂幸太郎のような軽い文体ではないので、その場面の感覚がうまく伝わってくる。犯人と主人公の戦いも、読んでいて飽きない。

主人公のタフさ、その行動力には感心させられる。こういう人を、山の男と呼ぶのであろう。普通の人間ならとっくにあきらめているところを、知恵と根性で切り抜けていく。しかも、彼は危険な場所に自ら戻っていくのである。その勇気には感動さえ覚える。人間の持つ力の奥深さ、その潜在能力、責任感がひしひしと伝わってくる。自分の仕事を途中で投げ出した、どこかの首相に読ませたい本である。
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2008年07月27日

さまよう刃

「さまよう刃」               東野 圭吾
★★★

  

ストーリーは、ある少女が少年グループに暴行され死んでしまう。それを知った父親が復讐しようとするという話である。

犯罪被害者の家族にとって、現在の司法制度は酷すぎる。もちろん、個人による復讐を許すべきではない。それを許せば、法治国家としての日本の根幹が揺らぐからだ。正当な理由があれば人を殺していいなどという理屈が通るはずはない。たとえ復讐でも、殺人は殺人なのだ。その代わりに死刑が存在する。もし犯罪被害者の家族の復讐を許せば、この社会は混乱し、手のつけられないものになってしまうだろう。

この小説のテーマになっている問題の根はそこにはない。問題は、現在の日本の少年法である。19歳までは少年とされ、更生できるチャンスがあるので保護されている。しかし、実際には18、9歳にもなった人間は人格的に大人とそう変わらないはずで、それを保護するのはおかしい。少年法による保護はせいぜい15歳ぐらいまでにとどめるべきではないのか。そうすれば、この小説のような悲劇も少しは防げるかもしれない。

また、被害者の父親は一度生じた「悪」は被害者の中にずっと残ると主張する。それはそうであろう。今年、無差別殺人が2件ほど起きた。こういった事件を防ぐには、終身刑の導入や死刑をもっと厳しくすることも有効であろう。具体的には、十字架刑などの残酷な刑を復活させるのである。死刑を犯罪の抑止力にしたいのなら、こういった手段も必要になってくるだろう。被害者の家族の恨みも少しは晴らすことができる。

しかし、犯罪者の人権もある程度は認めなければならない。そうしなければ、被害者の家族による復讐、刑務所内での非人道的な扱いなどがエスカレートし、手がつけられなくなってしまうだろう。ナチスドイツを見ても分かるように、人間にはひどく残酷な性質が備わっており、それを普段は理性によってコントロールしている。しかし、正当だと思われる理由があれば、その残虐性がむき出しになり止められなくなる可能性がある。そうなれば、とても法治国家とはいえなくなってしまう。従って、ある程度は犯罪者を保護することも必要だろう。
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2007年05月13日

GMO

「GMO」                 服部 真澄
★★





題名のとおり、遺伝子組み換え作物(GMO)をめぐる大がかりな陰謀を描いたサスペンス。ストーリーは、後半まではやや単調な部分が続くが、最後の50 ページ辺りに仕掛けがあり、ジェットコースターのように一気に読ませる。

遺伝子組み換え作物と聞いて、あなたは何をイメージするだろうか。寒冷地でもよく育つトマト、虫がつかず農薬のいらないイネなどかもしれない。しかし、農薬づけの作物と同じで、虫も食わない農作物を見たとき、背中に何か寒いものを感じないだろうか。GMOを使った農業ビジネスは、そんな状態をもはるかに超える恐ろしい存在になりうるのだ。

たとえば、ある作物を改良し、種ができないようにして、自分の会社から必ず種を買わせるようにし、その作物を独占する。それ自体はたいしたことがないように思えるが、非合法的なもの(麻薬など)にこれを利用したとき、どういうことが起こるか…そこからは、人間の欲望の深さ、底知れなさが見えてくる。

アダム・スミスは、「神の見えざる手」によって、消費者にとって最良の企業だけが自動的に残ると主張した。しかし、この本はそんな考えを簡単にたたきつぶす。ある国際的企業の、農業ビジネスにおける専横ぶりが描かれる。そこからは、スミスの考えとは反対に、あくなき利益の追求という資本主義の悪い側面ばかりが、科学と結びつき、どんどん増大してゆくという構図が読み取れる。その流れは止めようがないように見える。

ブレーキがきかない科学と、資本主義が結合した怖さ… そんなものを,この本はまざまざと見せつけてくれる。
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