2013年10月16日

天佑なり

「天佑なり」                          幸田 真音
★★★★



高橋是清の物語。と言っても、私は高橋是清という人物をほとんど知らない。第二次世界大戦の前に大蔵大臣をしていたと聞いたことがあるだけだ。また、宮沢喜一元首相が「平成の高橋是清」と呼ばれたのを知っているぐらいである。昔の偉人の一人なのだろう、ぐらいに思っていた。

是清は、英語を学ぶために、13歳でアメリカに渡る。そこではいろいろあり、日本に戻ってきて、開成所で英語を教えるようになる。読んでいくと、是清は決して優等生タイプではないことが分かる。むしろ逆で、遊びすぎて勤めていた学校をやめなければならなかったくらいである。

また、この頃は16歳で一人前の大人と見なされていた。是清も16歳で英語学校を経営していた。昔は大人になるのが早かった。

是清は一時期、英語の翻訳をして生計を立てていたようだが、そのやり方は、今なら考えられないような方法だ。是清はなんと、口頭で英文を読み上げながら訳していき、それを助手に書き写させるというのである。私も翻訳者の端くれであるから分かるのだが、こんな方法で翻訳をするには、相当ハイレベルな英語力が必要とされる。今の一流の翻訳者でも同じ方法で翻訳はできないだろう。

さて、是清の人生はまさに波瀾万丈である。出世したかと思えば職を失い、食うにも困ったりする。しかし、そんな中でも自分の生き方を貫こうとする是清の態度が印象的である。やはり、才能のある人間は自然に世に出るようになっているのだろう。是清は、前例や既成概念にとらわれず、次々と改革を成し遂げていける、行動力のある人物だったようだ。そして是清はだんだん出世していき、日銀副総裁の時、まさに「天佑」と言える出来事を経験する。

当時の歴史も交えながら、非常に興味深く読める。井上馨、松方正義など歴史で習った偉人があちこちで登場するのも楽しめる要素となっている。後に是清は大臣になるのだが、印象的なのは、当時軍国主義に反対していたことだ。なかなかできないことだし、当時の情勢を考えれば、命の危険もある。しかし、是清は信念の人である。日本のために、これが正しいと思えば堂々と主張する。それが是清という男である。そして、是清は日本の恐慌をも救う。その手腕を知ると、今是清が財務大臣であったら…と考えずにはいられない。1000兆の借金を、是清ならどうするのか。アベノミクスは果たして是清のように日本を救えるのか。そんなことを考えさせられた本だった。

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2009年12月20日

京大芸人

「京大芸人」               菅 広文
★★★★




偏差値72。お笑い芸人ロザンの宇治原の高校入学時の偏差値である。頭のできが違うことがよく分かる。相方の菅は彼のことを「高性能勉強ロボ」と呼んだが、もっとふさわしい言葉がマンガ「ドラゴン桜」にあるのだ。「宇宙人」である。ドラゴン桜に出てくる宇宙人はハンパではない。高校は普通の高校だが、ものすごく成績が良く、東大理三確実。進学校にも行かず、家では家事もこなし、部活ではレギュラーとして活躍し、それでいて勉強がずば抜けてよくできる―それが宇宙人だ。もちろん架空の人物なのだが、取材に基づいているので、まんざら嘘ではない。私の知り合いにも同じような人物がいる。宇治原も高校ではバスケ部で、練習に打ち込んで3年にはエースになったらしいが、それでいてあまり部活に熱心ではなかった菅よりも勉強はよくできた。彼の宇宙人ぶりを示すエピソードと言える。
 
そして、宇治原は見事に現役で京大に合格する。そして今、クイズタレントとしてテレビで活躍している。この本を読む限り、芸人になる動機は菅の一言なので、彼は今の立場で満足しているのかもしれない。しかし、私から見ると残念である。クイズ番組などを見ていると、彼の頭のいいのがよく分かる。彼ほど頭が良ければ、医者でも弁護士でもなれただろう。それでなくても、本業のお笑い芸人として活躍し、持ち前の頭の良さを活かして成功しているなら私も文句は言わない。しかし、今の彼は学生時代の財産で生きているようなものだ。学生時代は勉強をしてテストでいい点を取る。今は番組のために勉強をしてクイズでいい成績を残す。そのふたつにどんな違いがあるというのか?彼の人生なのだからどんなふうに生きても他人が口出しすることではない。しかし、彼のような頭脳に恵まれなかった私から見ると、彼はせっかくの才能を浪費しているようにしか見えないのである。本業の漫才師として活躍することを祈りたい。

内容としては、すごく読みやすい本である。2時間もあれば読める。文章から、菅の相方に対する愛情が伝わってくる。京大受験の勉強方法についても書いてあるので、受験生には参考になるかもしれない。個人的には、頭の出来の違いを思い知らされるだけで、あまり参考や励みにはならなかったが。




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2007年05月20日

マオ 誰も知らなかった毛沢東

「マオ 誰も知らなかった毛沢東」      ユン・チアン    
★★★
       




現在の中国の共産主義体制を確立した毛沢東の真の姿に迫るノンフィクション。われわれ日本人が知っている毛沢東とはまったく異なった人物像が浮かび上がってくる。実際の彼は確固としたイデオロギーを持たず、カリスマ性もなく、自己中心的で、その上残酷である。

この本を読めば、どれだけ多くの人間の犠牲のうえに現在の共産主義中国が成り立っているかがよく分かる。彼は決して英雄ではない。毛はただの野心家であり、うまくチャンスをとらえ、その後は武力による弾圧(血の粛清)とライバルを蹴落とすことによって、最高指導者の地位を得たのである。

これまでは、毛沢東は中国の共産主義体制を作った英雄というイメージを持っていた。しかし、この本を読んで、そんなイメージは粉々に打ち砕かれた。

毛沢東の若いころ、旧ソ連でも中国でも大量虐殺が行われていたようである。そこには、自分たちの信念にそわない者を武力で鎮圧するという構図があり、それは現在のイラク戦争などと変わらない。民主主義と共産主義という違いはあるが、歴史は繰り返すという言葉が当てはまる。

毛沢東の国の支配形態は、紛れもなくファシズムである。彼は恐怖政治によって権力を維持していたのである。毛はその野望のために、何千万という人間を犠牲にしている。その点では、ヒトラー以上の独裁者と言える。

「共産党による統治はつねに殺人を続けていないと不可能だった」という記述から分かるように、共産主義はもともと人間社会の性質に合わない無理な政治形態だったのだろう。その後のソ連の崩壊、世界情勢の変化などを見ても、そのことがよく分かる。
posted by 三毛ネコ at 13:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 伝記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする