2017年01月29日

3バック戦術アナライズ

「3バック戦術アナライズ」                   西部 謙司
★★★★★



3バック。何となく守備的で面白くない、というイメージがある。時代遅れという感じもする。そんな3バック戦術を分析し、解説したのが本書である。

オシムとビエルサが非常によく似ている、という説明が面白い。サッカーへの取り組み方が熱心すぎるところ。率いるチームの守備はマンツーマン。ボールを奪った後の切り替えの速さとダイナミズム。どちらも天才的なトレーナーであること。ビエルサのサッカーは見たことがないので何とも言えないが、オシムについてはある程度分かる。しかし、2人とも素晴らしいサッカーを展開するのだが、1シーズンの最後まで戦い抜けずに消耗してしまうので、タイトルはあまり取れないところまで似ているという。確実に勝てるサッカーと理想的な素晴らしいサッカーは違う、ということなのかもしれない。

最初はフランスリーグマルセイユの現監督、ビエルサが採用している3バックの解説である。しかし、彼のシステムは中盤がダイヤモンド型の3-4-3で非常に攻撃的なサッカーだ。守備的で5バックになりやすい3-5-2とは異なる。1章はビエルサについての考察が中心である。

次はグアルディオラのバイエルン・ミュンヘンの戦術を解説していく。戦術好きにとっては非常に興味深い説明だ。

さらに、ブラジルW杯のオランダ-スペイン戦も分析している。オランダは守備的な5バックで臨んだ。対スペインではバイタルエリアをどう守るかが重要になる。結論としては、相手がバイタルエリアに入ると、徹底的に激しいプレスをかけるのが効果的らしい。オランダはしっかりとスペイン対策の守備をしてきたのだ。攻撃でも、相手をよく研究し、その弱点を突いて1点目、2点目を決めている。オランダが勝ったのはまぐれではない。

また、著者はザックジャパンが3-4-3システムを攻撃ではなく守備のオプションとして使っていればどうだったかと言う。守備で両サイドハーフが引いて5バックになっていればコートジボワール戦は逃げ切れたのではなかったかと。W杯を戦い抜くには守備力が決め手になる、と著者は主張する。守備のオプションなしで臨んだ日本は勇敢というより無謀に近かったということらしい。

オシムもジェフ市原では3バックを使っていた。3バックだから必ずしも守備的ということはなく、相手に合わせて変えていく、そのために状況に応じて3バックも使う、というのが正しい理解のようだ。ブラジルW杯でもオランダやコスタリカが採用したように、決して時代遅れというわけでもない。

もう一つ上のレベルでサッカー観戦を楽しめる、そんな分析や情報が詰まった本である。
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2016年09月24日

戦術リストランテW

「戦術リストランテW」                     西部 謙司
★★★★★



最新のサッカー戦術を分析した本。

ブンデスリーガのグアルディオラのバイエルン・ミュンヘンは「フォーメーションがない」と言われるそうだ。サイドバックがボランチの位置に移動するなど、変化が大きすぎるからなのだが、それはより確実にボールを運び、より強力にフィニッシュするためなのだ。グアルディオラは、例えれば経理の人間に営業をやれと言い、その選手の能力をさらに引き出そうとする。2014〜15年、15〜16年シーズンのバイエルンの攻撃や守備についてかなり詳しく著者が解説する。

そしてこの章では、欧州チャンピオンズリーグのバイエルンvsユベントスの一戦からグアルディオラの戦術を読み解く。

2章では、リーガ・エスパニョーラの2強、バルセロナとレアル・マドリーについて分析している。現在のバルセロナといえば、MSN。ワールドクラスのFW、メッシ、スアレス、ネイマールのことである。この3人を中心とした攻撃的サッカーがバルサの特徴である。ただし、今のバルサはMSNに依存しすぎていて、それが問題のようであるが。

レアルの方は、相変わらずタレント揃いで、強力なチームには違いない。しかし、攻撃的な4-3-3のフォーメーションを選択し、守備に難があったため、無冠に終わり、監督のアンチェロッティは解任された。これが2014〜2015年シーズン。そして2015〜16シーズンでは、ジダンが監督になった。「思ったよりよくやっている」というのが著者の感想である。攻撃的な選手ばかりで守備に難があるのは変わらない。15〜16シーズンはチャンピオンズリーグに専念した方がいいというのが、著者の意見であり、その考え通り、レアルはチャンピオンズリーグで優勝した。

3章には香川真司が所属するブンデスリーガ、ドルトムントの分析もある。監督がトゥヘルになり、ドルトムントのサッカーは堅守速攻からパスサッカーになった。タイプとしてはバイエルンに近くなったという。香川の活躍でドルトムントがチャンピオンズリーグで優勝するのを見たいものだ。

最後の方には、岡崎慎司が所属するプレミアリーグ、レスターの分析がある。レスターが堅守速攻だけで昨シーズントップを走り続けられたのは、バーディーとマレズという、独力で敵陣までボールを運べるタレントがいたからだという。この2人でカウンターで点が取れたわけだ。この2人に加えて、ボランチのカンテという選手もワールドクラス予備軍らしい。もちろん、岡崎の守備面での貢献も大きい。1部残留が目標だったチームが優勝してしまうのだから、サッカーは本当に奥が深い。

最新の欧州のチームや監督、その戦術を分析していて、サッカーファンには十分楽しめる内容になっている。
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2016年09月18日

エデン

「エデン」                          近藤 史恵
★★★★



新聞の広告で見つけて、図書館で予約したのだが、人気のある本だったらしく、手に入ったのは、なんと半年後。自転車ロードレースという、あまり日本ではなじみのない競技が中心なのだが、この作家は分かりやすく読ませる術を心得ている。

誰でも、名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。舞台はツール・ド・フランスである。丁寧な説明で、読み進むうちに、ロードレースの魅力が分かってくる。

スラスラと読める。ミステリーとは言えず、スポーツ小説なのだが、読ませる力は十分に持っている。スポーツ好きでなくても、内容的には面白く読めるだろう。

全体を支配する雰囲気はさわやかで、悪くない。読みやすいというのも、大きな長所だ。しかし、できればミステリー性を強くしたほうが小説として傑作になっただろう。悪くない読後感とともに、少し物足りなさも残る作品である。
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2016年08月30日

イチローの哲学

「イチローの哲学」                     奥村 幸治
★★★★



この本が書かれたのが2011年ごろ。イチローが10年連続200安打を達成した次の年である。まだマリナーズ所属のころだ。

著者はイチローのオリックス時代にバッティングピッチャーを勤めており、イチローとは親しかった。その後はトレーナーをしながら、少年野球の指導などもしているようだ。

イチローは自分が考えて「これだ」と確信して築き上げたスタイルは絶対に変えないという。そういうイチローだからこそ、一流のメジャーリーガーになれたのだ。しかし、自分が納得できたことは素直に受け入れる柔軟性も持っている。

イチローのルーティーンは有名だが、それはオリックス時代から実践していたらしい。バッティング練習では、まずレフト方向への流し打ちから始め、次にセンター方向、最後はライト方向に打ち返す。この頃からイチローは自分のルーティーンをしっかり守り、結果を出してきたころが分かる。

またイチローはヒットが出ない時期に練習量を増やしたりはしなかった。多くの選手が練習量を増やすのは「不安」だからである。しかし、イチローの場合は普段の練習でバットをボールに当てるタイミングやミートポイント、バットの出し方や角度を細かくチェックしているので、フォームやスイングが崩れた時、すぐに気づいて微調整することができる。だから特別な練習はしないのである。

イチローは自分が必要だと感じる時以外は練習をしすぎない。二軍時代に自分のバッティングフォームを確立する。春のキャンプでは確立したフォームをさらに技術的に進化させていく。そういうときは、イチローは猛練習をする。しかし、シーズン中のバッティング練習はバッティングフォームを確認したり微調整するためのものなので、そんなにハードな練習はしないのである。非常に合理的な考え方だ。

バッターボックスに入ったイチローは「目が怖い」と相手投手から言われていたらしい。猛獣が獲物を捕らえる時のような目だと言われていた。それを著者は、イチローが「無の境地」になっていて、ピッチャーを仕留めることだけに集中しているからだと推測している。

それから、この本は著者自身の人生について語っていく。打撃投手をしながらプロ野球の入団テストを受けていた著者だが、結局その夢をあきらめ、スポーツのパーソナルトレーナーになる。

そして、中学硬式野球チームを立ち上げる。教え子にはメジャーリーガー、田中将大もいた。著者が目指したのは、高い意識を持って野球に取り組み、今の自分に求められる役割は何なのかをきちんと自分で考える力を育てることである。メジャーリーグでは、選手が自分の考えを言わないとコーチがアドバイスできないという。従って、選手は目的意識を持って自発的に練習するようになる。

本書の後半は、著者が実践している野球の指導論や、指導者の条件について書かれている。前半のイチローとのエピソードはもちろん面白いのだが、後半の指導論も興味深い。

ベストセラーではないが、意外に拾い物の読書だった。
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2016年08月06日

未到 奇跡の一年

「未到」                             岡崎 慎司
★★★★★



奇跡が、実現してしまった。レスター優勝。しかし、これは事実である。そこに岡崎が所属し、奮闘していたことも。いったい、なぜこんな番狂わせが起きたのか。それが知りたくてこの本を読んだ。

ドイツのブンデスリーガで2年連続で2ケタ得点を挙げた岡崎。しかし、Jリーガーだった頃からイングランドのプレミアリーグにあこがれていたらしい。

ドイツのマインツで15得点を挙げると、レスターからオファーが来た。しかし、マインツ所属の他のFW2人が移籍したため、岡崎の力が必要だと慰留された。そして次のシーズンも2ケタ得点を上げ、レスターに移籍したのだ。契約直後に監督がラニエリに替わるなど、思いがけない出来事もあったが、結果的にはそれが良かったのだ。あまり戦術を重視する監督ではないらしい。

レスターの優勝オッズは5001倍。誰一人優勝など考えてもいなかった。ラニエリの目標もプレミアリーグ残留。

ラニエリはイタリア人らしく、守備を重視する。守備に関してはかなり細かく約束事を設けていたという。岡崎は、ザッケローニに似ていると感じたそうだ。

ラニエリは中心選手でも容赦なくスタメンから外すが、ラニエリとの約束が守れれば深い信頼を寄せる。こんなところが監督としてチームをまとめられた要因であろう。

岡崎は「試合に出る」と言う目標に向かってあれこれ考え、もがき、工夫し、没頭している時間がけっこう好きだと言う。この本を読むと、そんな岡崎を応援したくなる。

プレミアでは強いフィジカルが必要だと実感し、筋トレで体重を2キロ増やした。その成果も現れていたようだ。

20試合目でラニエリの目標だった勝ち点40を達成。その後も勝ち点を積み上げ、だんだん優勝に近づいていく。シーズン終盤になっても首位をキープし、2位トッテナムとも勝ち点5差があったが、選手たちが優勝を意識することはなかった。ラニエリも優勝については一言も触れなかった。目の前の試合に勝つことだけを考えていたのだ。何しろ、5001倍の優勝オッズである。期待されていない分、プレッシャーもなかったのだろう。

それに、ラニエリの選手起用も適材適所で効果的だったらしい。それが、ヴァーディーやマフレズの大化けにつながったのだ。

そして優勝が決まる。「どうしようもなくうれしい」、それが岡崎の思いだった。

奇跡のような1年だが、しっかり守ってカウンターという自分たちのサッカーを貫いたからこその結果と言えるだろう。来シーズン、優勝争いは厳しくなるだろうが、期待が大きくなる分、岡崎にとってはやりがいがあるとも言える。2ケタ得点ぐらいしないと、スタメンで出るのは難しくなるだろうが、きっと彼ならやってくれる。チャンピオンズリーグを含めた来シーズンの活躍が楽しみだ。
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2016年05月14日

グアルディオラ主義:名将の戦術眼は何を見ているのか

「グアルディオラ主義:名将の戦術眼は何を見ているのか」         西部 謙司
★★★★



2014年W杯、ドイツ優勝。そのチームの何人かはバイエルン・ミュンヘンの選手たちである。そんなバイエルンを率いるのは、あのグアルディオラ。彼は名将と言われ、気になる存在だったので、この本を読む気になった。

この本は、いきなりバイエルンvsドルトムント戦の分析から始まる。かなり詳しい説明なのだが、サッカーに関する知識が多少あれば十分に分かる。

グアルディオラはバイエルンをバルサ化しようとしていると言われていた。しかし、彼がバイエルンをバルサ化しようとしているというより、バルサと同じ手法をバイエルンでも使っているということなのだ。ただ、違うタイプの選手を使うので違ったサッカーになっているということである。グアルディオラはバルサを超えるチームを作ろうとしている。彼がブンデスリーガを選んだのは、プレミアよりも結果が出しやすく、自分のやりたいサッカーをするための人材がそろっていたかららしい。

4章ではヨーロッパサッカーの歴史も垣間見られ、興味深い。こういう本を読むと、サッカーにおける監督の重要性がよく分かる。そして、ヨーロッパでは常にクラブチームや選手が高いレベルでしのぎを削り、どんどんレベルアップしていることが感じられる。それに比べると、日本はまだまだ歴史が浅い・・・と感じざるを得なかった。スペイン代表が「無敵艦隊」と呼ばれながら、2010年W杯まで一度も優勝できなかったように、日本がW杯を手にするには悔しい、惜しいと思われるような試合経験を積み重ねていかねばならないのだろう。しかし、できれば生きているうちにそれが実現してほしい、と考えるのは私だけではないはずである。
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2016年04月16日

Jリーグの戦術はガラパゴスか最先端か

「Jリーグの戦術はガラパゴスか最先端か」               西部 謙司
★★★★★



Jリーグのレベルは世界の中で高いのか、低いのか。ずっとその疑問を抱いていた。この本では、Jリーグのいろいろなチームの戦術を分析している。

例えば、サンフレッチェ広島は3-6-1のシステムを採用している。最初にそれを知った時、「こんなシステムで勝てるのか?」と疑問に思ったものだが、ちゃんとJ1優勝という結果を出しているので、このやり方は正しかったといえる。広島のシステムを見ると、中盤がぽっかり空いている。だから、広島はロングボールで中盤を省略して攻めることもよくある。青山のような正確なロングフィードのできる選手がいるので成り立つのだろう。3-6-1はよく考えられたシステムと言える。

オシム時代のジェフも解説されている。ジェフは、反転速攻で数的優位を作って攻め込むのがうまかったらしい。また、オシムが目指していたのはトータルフットボールだという。しかし、全員がオールラウンドプレーヤーでない以上、それは実現不可能だった。オシムはロマンティストであると同時にリアリストでもある。それが著者の見解である。そんなオシムの日本代表をもっと見たかったと改めて思う。

それ以外にも、ジュビロ磐田のN-BOX、バルサ化を目指した横浜フリューゲルスなど、読み応えのある内容になっている。

詳しく、的確な解説で広島やガンバなど特徴的なサッカーをするチームの戦術を分析している。なるほどと気づかされることも多く、Jリーグの試合の見方が変わりそうだ。著者によれば、現在のJリーグの戦術はヨーロッパの最先端に近づきつつあるらしい。Jリーグの戦術は決して「ガラパゴス」ではなかったのだ。大木元監督の京都サンガのように、明らかにガラパゴスといえる戦術もあるが、元広島のペトロビッチのように、ヨーロッパに先行するアイデアもある。少なくとも、今のJリーグの戦術はヨーロッパにも劣らないものになってきているのは確かなようだ。

この本を読めば、Jリーグ観戦がより楽しくなるのは間違いない。
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2016年02月01日

サッカー右翼 サッカー左翼 監督の哲学で読み解く右派と左派のサッカー思想史

「サッカー右翼 サッカー左翼」                     西部 謙司
★★★★



私が好きなのは極左である。ただし、政治的な意味ではなく、この本によるサッカースタイルの好みによれば。右翼のサッカーは勝利至上主義、左翼は理想主義。右翼は守備から入り、左翼は攻撃的。見ていて面白いのは左翼のサッカーで、私もそちらが好きである。

左翼の監督の代表格はグアルディオラ。確かに、グアルディオラが監督だった頃のバルサのサッカーは美しかったし、見ていて面白かった。彼は明らかに極左なのだが、試合で右翼的な策を講じたりもする。バイエルンを率いるようになってからは、「ゼロ・センターバック」という斬新な戦術を用いたこともある。彼を評した「この四半世紀で最も優れた監督だ」という言葉には納得させられる。

モウリーニョについても言及されている。彼は中道右派で、「結果至上主義者」と言われるが、強豪相手だと守備的に戦うことが多いのでそう思われるだけ。インテルやチェルシーのような強豪チームを率いることが多いので、実際にはボールを支配した攻撃の時間の長い試合が多いのである。

歴代の日本代表監督でいえば、シメオネ(この本では極右とされている)のアトレティコ・マドリーが好きだというアギーレは右翼、W杯直前にシステムを守備的に変えて結果を出した岡田武史も右翼、攻撃的で理想的なサッカーにこだわったザッケローニは左翼だろう。ハリルホジッチは・・・極端な負けず嫌い、規律重視なのは右翼的だが、今までの試合を見ると、守備ばかり優先するわけではないので、中道右派あたりなのかな、という感じである。

欧州クラブの監督や各国代表チームのサッカーの特徴を切り口に、それぞれの監督や代表チームを右翼と左翼に分けて解説していく。今までにない斬新な試みで、非常に楽しめた。本書を読めば、サッカーの歴史や各監督の戦術傾向に少し詳しくなれるだろう。
ラベル:サッカー W杯 戦術
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2016年01月02日

4割は打てる!

「4割は打てる!」                      小野 俊哉
★★★★



4割を打つ日本人選手は現れるのか。野球ファンなら、誰もが興味を持つ質問である。

この本では、過去の4割バッターなどの成績を分析し、4割を打つための条件を探っていく。商品の説明にあるように、カギとなるのは「対右投手」「四球」「固め打ち」である。私は、現在4割を打てる日本人はイチロー以外にはいないと思っていた。しかし、この本によると、イチローはメジャーで過去に4割を打ったバッターのタイプには当てはまらないのだ。日本人が4割を打つのは無理なのだろうか?本書では、王や長島などの成績も分析しながら、4割達成の可能性を見出そうとする。例えば、イチローが262安打したときに、「四球」の問題をクリアできていれば、4割は達成できていた。21世紀で最高の打率(.378)をたたき出したソフトバンクの内川にも可能性がある。

しかし、この本を読むと、いかに4割を打つのが難しいかがよく分かる。「もっと四球が多かったら」「ここであと5安打していれば」など、「たら」「れば」の連続なのである。それでも、全国的に無名のイチローが突然出てきて打ちまくり、210安打したように、イチローを超えるような新人がいきなり出てきて4割を打ってしまう可能性もゼロではない。その時を楽しみに待ちたいと思う。

データを分析することが好きな人には楽しめる本である。
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2014年08月08日

週間サッカーダイジェスト

「週間サッカーダイジェスト 8/12」
★★★★



アギーレ特集があったので読んでみた。メキシコのメディアは好意的に受け止めているようだ。アギーレは、ディテールにこだわる監督だという。その点はオシムと同じである。また、リーダーシップと弁舌のうまさも評価されているようだ。理想とするのはポゼッションサッカーらしいが、実際にはスペインの監督時代には堅守速攻のスタイルしか選んでいない。ただ、メキシコ代表監督としては攻撃的なポゼッションサッカーをしていたということなので、選手やその状況に合わせた現実的なサッカーをする監督のようだ。ザックよりも柔軟な試合運びをしてくれそうだ。

これから日本代表をどんなチームにしていくのか、楽しみである。できれば、攻撃的なチームにしてほしい。

まずは、9月のウルグアイ、ベネズエラ戦に注目していきたい。
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2014年02月01日

なぜボランチはムダなパスを出すのか?

「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」                北 健一郎
★★★★



日本代表の不動のボランチ,遠藤。遠藤がなぜ「代えのきかない選手」なのか分からなかった。しかし,この本を読んでその意味が分かった。遠藤は2手先,3手先を常に予測してプレーしている。だからスムーズにパスが出せるのだ。

「遅いパス」も時には重要らしい。敵のマークがずれ,スペースが生まれるというメリットがあるのである。

しかし,遠藤を「ボランチ」と言い切ってしまうのには違和感を覚える。確かに日本代表の4-2-3-1の2のところにいる時はボランチである。しかし,ガンバ大阪は4-4-2のシステムを使っているので,正確に言えばガンバでの遠藤はボランチではなく,セントラルミッドフィールダーと呼ぶのが正しい。

この本の大部分が遠藤について書かれている。「なぜ遠藤はムダなパスを出すのか?」と言い換えてもいいくらいだ。遠藤は50〜60種類のゴールに直結するパスを出すという。それだけの引き出しがあるのも驚きである。味方がプレーしやすいパスを出すようにしているらしい。

本書によれば,遠藤が本当によく考えてパスを出しているのが分かる。前方の味方にパス,敵をそこへ引きつけておいてリターンをもらい,左サイドのサイドバックにパス。一見ムダとも思える1本目のパスがその後の攻撃を展開していく上で重要なのだ。遠藤は本当に2,3手先を読んでパスを出している。常に味方と敵のポジションや動きを把握し,どんな展開になるのかをシミュレーションする。この本を読み終わると,遠藤やシャビのすごさが少しは分かるようになる。オシム元日本代表監督は「考えながら走れ」と言ったが,一流のサッカー選手は確かに考えながら走っているのを実感させられた本であった。
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2013年11月03日

宮本式・ワンランク上のサッカー観戦術

「宮本式・ワンランク上のサッカー観戦術」             宮本 恒靖
★★★




著者は言わずと知れた,元サッカー日本代表キャプテン。

オフザボールの動きの大切さを説くところからこの本は始まる。オフザボールの動きが重要なことは分かっていたが,もう少し注意して試合を見ようという気にさせられた。

日本代表の遠藤がなぜ「代えのきかない選手」なのかも説明されている。パスを出そうとする,ぎりぎりのところで出すのをやめる判断ができる,そして少しポジションを修正してパスコースを作る,それが遠藤のすごさだという。他にもヒデや俊輔のすごさにも言及している。
 
ただ,宮本でも4-4-2のフォーメーションの真ん中の「4」の中央の2人のMFをボランチと呼んでいる。これは間違いで,正しくはセントラルミッドフィールダ―である。日本人は,解説者ですらこの位置のMFをボランチと間違えて呼んでいる。アーセン・ベンゲルが名古屋グランパスの監督をしていた時,取材記者が前記のポジションを「ボランチ」と言うと,「セントラルミッドフィールダーだ」といちいち訂正していたらしい。あるサッカージャーナリストが言っていたように,日本には4-4-2の文化が浸透していないということだろうか。
 
ちょっと意外なのは,日本代表の注目の選手が岡崎だという意見である。相手DFが突かれたら嫌なゾーンに必ず入ってくる動きをするからだそうだ。
 
また,宮本は本田をワントップで起用すべきだと言う。相手DFを背負ってボールをしっかりとキープでき,得点力もある。私もその意見に賛成である。
 
私の場合,どうしてもボール中心の見方になってしまうのだが,この本でそれ以外のところを見る重要性と面白さを教えられた。
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2013年07月02日

サッカーの見方は1日で変えられる

「サッカーの見方は1日で変えられる」                    木崎 伸也
★★★


シンプル。この本に書かれたサッカーの観戦法である。そして,説明は分かりやすい。たとえば,攻撃ならボール保持者を追い越す選手がいるか,クロスに対して飛び込む人数が多いかといった点を見る。言われることはいちいちもっとも。「なるほど」と理詰めで納得させられる。基本的すぎるとも思うが。 また,○×形式でどういうアクションが○か,どういうアクションを起こさないのが×かなども説明してくれる。

 現時点で世界最高のチームはバルセロナだとこの本は言う。確かにその通りで,バルサは敵の間でパスをどんどんつなぎ,ゴール前までボールを運んでシュートを決めてしまう。あんなサッカーができるのはバルサだけだろう。バルサのサッカーは見ていて面白い。しかし,そのサッカーがとんでもなく高いレベルの技術に裏打ちされたものであることも確かだ。

 読了後,この本を片手にサッカーの試合を片っ端からチェックしてみたくなった。そして,チェックポイントを頭に入れて実際にJリーグの試合をTVで観戦してみたのだが,確かにボーっと見ているよりはサッカーの見方が変わる気はする。しかし,私は特にJリーグの大ファンでもないし,この本のような見方をしていたら,かえってくつろげない。日本代表の試合の時に,またこの本のチェックポイントを気をつけて見るようにしたい。
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2012年09月02日

精密力〜日本再生のヒント〜

「精密力〜日本再生のヒント〜」                      眞鍋 政義
★★★★★




祝,女子バレー日本代表オリンピック銅メダル獲得!著者は現女子バレー日本代表の監督。著者が言う「和」, 「器用さ」,「緻密」がバレーボールに必要とされる力らしい。まさに日本人の特性をそのまま表している。

 著者が実践する「データバレー」はそれほど目新しいものではなく,10年以上前から日本でも導入されていたという。著者は現役の時セッターだった。野球でいえばキャッチャー,サッカーでいえばトップ下に当たるポジションらしい。試合全体を見渡し,コントロールする役目である。そのため,著者はデータに興味を持つようになったらしい。
 
実際に世界選手権でデータを重視したバレーをし,世界ランク1位のブラジルを相手に健闘したという。プロ野球楽天元監督の野村や,ラグビーの平尾誠二もそうだが,どのスポーツでも頭脳的なプレーを重視する監督はいるのだなと思った。もちろん徹底的な練習による高いレベルの技術がないとデータも無意味なのだが,高いレベルでのデータの威力をまざまざと感じた。
 
バレーボールでは「高さ」と「パワー」のあるチームが勝つと思われるかもしれないが,意外とそうでもないらしい。バレーには他にもいろいろな要素が存在するので,日本が世界に勝つには「日本人の精密力を生かすバレー」をしようというのが著者の考えである。バレーは野球などに比べるとボールを上げてスパイクするだけの分かりやすい競技だとなんとなく思っていたのだが,この本を読んでそのイメージはガラッと変わった。実際は,考える要素が実にたくさんある,複雑な競技なのだ。
 
世界選手権での銅メダル,五輪出場権を獲得したことで,著者の「データバレー」の効力は証明されたといえるだろう。この本を読んで,私は女子バレ―日本代表がオリンピックでメダルを取ったのは当然だと思えた。
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2011年09月22日

「3−4−3」究極の攻撃サッカーを目指して

「3−4−3」究極の攻撃サッカーを目指して
★★★★★




3-4-3が攻撃的。「4−2−3−1」の著者の言葉とは思えない。あの本には,確か山本昌邦の採用する「3−4−3」の陣形は守備的だと書かれていたからだ。しかし,読んでみてその疑問は解けた。山本ジャパンの3−4−3とは違う。ザックの3−4−3は5バックになりやすいという欠点はあるが,確かに攻撃的なのだ。また,3−4−3にはかつてのオランダ代表やバルセロナが採用した中盤がダイヤモンド型の3−4−3もある。こちらは文句なしに攻撃的である。どのポジションの選手にも2か所以上のパスの出しどころがあるのが特徴である。

あの日韓大会でベスト4に行った韓国代表も3−4−3で戦っていた。弱者に適したシステムらしい。このシステムで試合をする選手には,複数のポジションをこなせるユーティリティー性が求められる。このポジションしかやらない,というスター選手には向かない。だからこそ,(当時)スーパースターがいなかった韓国代表に合っていたのだろうし,日本にも合っていると言えそうだ。

守備固めというと,下がって守ることだと思われるが,今はそうではないらしい。むしろ,高い位置でボールを奪えるようにする。アジアカップでザックがやったように,長友のようなDFを一列高い位置に置くのが今の流行らしい。ザックは研究熱心なので,ちゃんとそれを知っていたということか。

ザッケローニの3−4−3についてももちろん言及されている。このシステムは,3トップの両サイドがウイング的な役割をして初めて真価を発揮する。3トップが真ん中に寄ってしまうと,3−4−1−2に近い形になり,守備的になってしまうのだ。また,前述したように,相手に押し込まれたときに5バックになってしまう危険もある。著者は,ザックがイタリアで結果を残し続けられなかったのは,3−4−3を使い続けられなかったからではないかと推測している。確かに,バルサのサッカーなどを見ていると,「攻撃こそ最大の防御」と思わされる。攻撃的なサッカーのほうが勝ちやすいかどうかは分からないが,少なくともそういうサッカーは見ていてもやっていても楽しい。日本でもそういう(3−4−3の)サッカーを見たいと思うのは私だけではないはずである。
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2011年08月30日

バルセロナ戦術アナライズ

「バルセロナ戦術アナライズ」                 西部 謙司
★★★★★




感心した。バルセロナというチームをここまで分析し,語りつくしたことに。著者はサッカージャーナリストだが,よほどバルセロナが好きなのだろう,と思わされる。

現在,最強のクラブチーム,バルセロナ。バルサは典型的なボールポゼッションサッカーをする。このサッカースタイルは,70%近くボールを支配できれば,80%の試合には勝てるという考えに基づく。

’88〜90年のヨハン・クライフ監督の時代に今のバルセロナの基礎が築かれたという。そこに,日本代表にも通じるヒントを見出すことができる。イタリアのカウンターサッカー,フランスのシャンパンサッカーのように,バルセロナもまたクライフの時代にバルサ独自のスタイルを見つけだしたのだ。多少の変化はあっても,基本はクライフのサッカーにある。日本代表はまだこれで世界と戦うというサッカーを見つけてはいない。私はそれをザッケローニに期待している。日本が世界で戦える確固としたスタイルを確立した時,日本は一段とレベルアップしたチームになっているだろう。その延長線上にW杯の優勝もあるはずだ。

ヨハン・クライフが採用したシステムは3−4−3(ザッケローニの3−4−3にあらず)。非常に攻撃的な陣形である。攻撃は最大の防御。それがクライフの考え方だったのだ。チャビやイニエスタなど,バルサにはワンタッチでプレーできる選手がたくさんいる。それがバルサのサッカーの生命線でもある。バルサは単なるボールポゼッションサッカーをしているのではない。ゴールを決める方法論をしっかりと持っているのだ。日本代表も大いに見習うべきところではある。

この本は純粋に面白い。私自身,サッカーの戦術や試合の分析が好きなこともあるが,本当に楽しんで読めた。例えれば推理小説の謎解きを読んでいる感じの面白さがある。

バルサのサッカーのコンセプトは「数的優位を作る」「ボールポゼッションの時間が多いほうが勝ちやすい」である。この本を読んでみると,バルサのゲームの進め方は非常に緻密で数学的である。私は文系だが,バルサのサッカーには美しさと魅力を感じる。サッカーがここまで論理的なものだとは思わなかった。

バルサのサッカーはひとつひとつのプレーがよく考えられていて,惰性でプレーしたりその場しのぎでパスを出すことはほとんどないようだ。本当に理詰めなのである。著者は,それを「チェスを思わせる」と表現している。しかし,同じパスサッカーではあるが,このサッカーを日本代表が取り入れるのは簡単ではないだろう。確かに,日本の選手には技術があるし,スピードも備えている。しかし,バルサでは下部組織の小学生時代から考えてプレーすることが求められる。日本代表がバルサのようなプレーをしたければ,やはり同じように小学生の指導から変えていかなくてはならないだろう。

また,バルサの考え方では,頭を使ってプレーすれば,あまり走らなくていいということになる。運動量より動きの「質」を重視するのだ。ジャストなタイミングでいるべきポジションにいればそれでいいのだと。それがバルサの一貫した考え方である。この考え方からも,日本とは方向性が違うようだ。

内容については,かなり細かく分析しているので,マニアックとも言える。サッカーの戦術や分析が好きな人でなければついていけないかもしれない。

やっていても見ていても面白いサッカー,そんなサッカーがもちろん理想である。そのようなサッカーを日本に根付かせるひとつのきっかけとして,この本の試みは有効といえるだろう。この本を一人でも多くのサッカー関係者が読み,日本独自のサッカーを作っていくヒントになってくれることを願う。




サッカー バルセロナ戦術アナライズ 最強チームのセオリーを読み解く
  • 西部謙司
  • カンゼン
  • 1680円
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書評
ラベル:サッカー W杯 戦術
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2011年06月21日

W杯で勝つザッケローニの戦略

「W杯で勝つザッケローニの戦略」               別冊宝島
★★★★




冒頭のページに、「ザッケローニは日本サッカー史上最高の指揮官」とある。ちょっとほめすぎではないか、と思わされる。しかし、この雑誌を読むと、その表現が決して誇張ではないことが分かる。日本代表選手や解説者がザックの戦術や人柄について解説している。ザックの素顔なども紹介されている。

頭のいい監督、と遠藤は言う。それだけではなく、選手の言うこともけっこう聞いてくれるらしい。遠藤がチーム作りについて希望を伝えると、やり方をすぐに変えてくれたらしいのだ。柔軟性があり、選手の意思を尊重してくれる監督である。トルシエとは違って、選手とは良好な関係を築きつつあるようだ。選手が共通して言うのは、指示が細かいということ。また、攻撃的なサッカーを好むようだ。

そして、選手の悪いところについてメディアを通して言わないというのも立派である。監督は選手にミスや欠点を直接言える立場にある。メディアを使って遠回しに伝える必要はないのだ。選手も、自分の欠点などを公の場でボロクソに言われては腹が立つだけである。その点を、ザックはよく分かっている。

ザックがACミランでスクデッドを獲得した時、チームメンバーには一流選手は多くなかった。にもかかわらず、最高の結果を出せたのは、彼の監督としての手腕を物語っている。彼は決して「過去の人」などではない。アジアカップで成し遂げたように、きっとW杯でも素晴らしい結果を残してくれるだろう。
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2010年10月23日

黄金世代 99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年

「黄金世代‐99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」        元川 悦子
★★★★




ずっと気になっていた。日本サッカーの黄金世代はいかにして生まれたのか。そこに、日本がさらにレベルアップするカギが隠されているはずだ。

私が応援しているのは遠藤。読みに優れ、視野が広く、正確なパスが出せる選手である。高校時代からそうだったらしい。しかし、彼には一つ欠点があった。きついことをやりたがらないのである。フィジカルコンタクトをできるだけ避け、ムダな走りはしたくない。しかし、プロになってからはそんな態度も変わっていった。私がそれを最も強く感じたのはW杯南ア大会デンマーク戦。あの遠藤がなんとダイビングヘッドを見せたのである。このとき、遠藤が変わったのを思い知らされた。

ワールドユース優勝の原因は、Jリーグの発足、W杯の招致活動、豊富な国際試合の経験などが考えられる。

ワールドユースを終えた選手たちには一体感があったという。これは、南アW杯の時の日本代表の選手たちが口にしていたのと同じ言葉である。勝てるチームには共通する雰囲気があるのだろう。

そして、黄金世代の多くは海外クラブに移籍する。小野、稲本、高原の3人は成功したと言ってもいいだろう。それは、黄金世代のレベルの高さを実証している。

日韓W杯も忘れられない。初の引き分け、初勝利、そしてベスト16へ…小野、稲本らが最も輝いていた時期である。

そしてドイツW杯。選手やチームの力が落ちたとは思えない。黄金世代はキャリアのピークに達し、テストマッチではあるが、強豪ドイツとも互角に渡り合える力を持っていた。やはり、この本にあるようにチームがひとつにまとまりきれなかったこと、ジーコの選手の自主性に任せるという方針が日本人のメンタリティーに合わなかったことが敗因に挙げられる。

オシムについても語られている。この筆者もオシムを高く評価し、オシムの作り上げたチームを見たかったと記している。まったく同感である。この意見に反対する人は、ぜひ「オシムの言葉」を読んでみてほしい。きっと彼に対する見方が変わるはずだ。

2章では、黄金世代へのインタビューがある。といっても、Jリーグで活躍し続けている者、下部リーグへ移った者、ヨーロッパから日本に帰ってきた者…と様々である。

その中で、たとえば中田浩二が言う。ヨーロッパでは、フィジカル重視で、ファウルもなかなか取ってくれないと。日本代表が世界で強豪になれない理由はそこにある気がする。Jリーグのルールを変えて、ファウルをあまり取らないようにすれば自然と当たりが激しくなり、フィジカル面も鍛えられるのではないか。選手がヨーロッパに移籍するのも大事だが、やはり日本代表の基本になるのはJリーグである。できればルール改正をしてほしいものである。

ワールドユース準優勝のメンバーが口々に語るのは、決勝でのスペインのすごさ。特に、シャビは際立っていたらしい。しかし、ワールドユースでのスペインの優勝、そして南アW杯での優勝は日本にも希望を持たせてくれる。スペインの選手は、欧州にしてはあまり大きくない。おそらく、フィジカルの弱さを判断力や攻守の切り替えの速さ、テクニックなどで補っているのだろう。日本代表もパスサッカーで、あまりフィジカルは強くなく、スペインと共通するものがある。もしJリーグでのフィジカル強化ができないのであれば、スペインを手本にしてパスサッカーをもっと徹底していくべきだと思うのだが…

黄金世代はもう出てこないのだろうか?確かに、小野、稲本らのスター集団はいろいろな条件が重なってたまたま出てきたといえる。しかし、選手を育てる環境は今のほうがよくなっているはずだ。やはり、タレント集団が続いて出てこないのは、日本では野球が一番人気のあるスポーツだからだろう。イチローや松坂のように、運動センスのある子供はサッカーではなく野球のほうに行ってしまう傾向がある。サッカーしかない南米などとは違うのだ。黄金世代を再び生み出すには、育成システムもさることながら、Jリーグのクラブや日本代表が結果を出し、もっと日本のサッカー界を盛り上げていく必要がある。第二、第三の黄金世代が出てくるとき―その時こそ、日本は一流のサッカー国になっているに違いない。




黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年
  • 元川悦子
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書評




posted by 三毛ネコ at 14:19| Comment(0) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月15日

日本サッカー 世界で勝つための戦術論

「日本サッカー 世界で勝つための戦術論」  西部 謙司
★★★★




日本はなぜ世界で勝てないのか?理由としては、ストライカーの不在、決定力不足などが挙げられるだろう。しかし、この本では世界と戦うための戦術を考える。まず、岡田ジャパンのプレッシングについて言及されている。著者は、その選択は正しいという。しかし、’09年9月のオランダ戦などでは、後半途中までは運動量が落ちず、前線からのプレスがよく効いていたが、運動量が落ちてから3失点してしまった。オランダの選手が試合後に言っていた。「あの(日本の)サッカーを90分続けることは無理だ」と。ではどうすればいいのか。運動量が落ちたら守備方法を変え、中盤で待ち受けてプレッシングをするようにすればいいのだと著者は言う。もちろん、カメルーン戦のように守備的にやることも正しいだろう。

日本にセンターフォワードがいない、という指摘は正しいようだ。フェルナンド・トーレスやドログバなどが典型的なセンターフォワードらしいが、日本にはそれに当たる人材がいないというのである。玉田や大久保などは高さが足りない。従って、日本は実質「ゼロトップ系」なのだという。そこに当てはまる選手としては、本田がいる。三浦カズはブラジルでプレーしていた時はウインガーだった。しかし、日本に戻ってからはFWになり、Jリーグ得点王にも輝いている。カメルーン戦を見ても、今の本田は明らかにセンターFWのほうが向いている。思い切ってFWに転向すれば、日本のエースになれると思うのだが。

現在では、Jリーグは「輸出型」リーグになり、レベルの高い選手はどんどんヨーロッパに行ってしまう。これ自体は悪いことではない。ガンガンヨーロッパに行って、ヨーロッパ組だけで1チーム作れるぐらいになってほしい。そうすれば、日本もベスト8、ベスト4が見えてくるのではないだろうか。

フランスやオランダの2部よりJ1のレベルのほうが高いという記述には驚いた。ただ、Jリーグではフィジカルコンタクトが少なく、欧州とは当たりの激しさも違う。そのため、Jリーグのスター選手もあまり評価されていないのだ。そして、ヨーロッパでプレーする日本人選手は(チャンピオンズリーグなどで)普通にいろんなタイプのチームと試合をする。だから世界の強豪とやるときもプレーを変える必要がない。やはり、ちょっとレベルが落ちてもヨーロッパでプレーする重要性は高い。

この本が書かれた時点では、まだW杯のグループリーグの組み合わせが決まっていなかった。そこで、この書ではスペインなどを仮想敵国として戦略を考えている。それを読むと、著者は現在(2009年11月)の日本のスタイルに肯定的である。この本を読む限り、グループリーグ突破の可能性も十分あると見ているようだ。単なる希望だと思っていたのだが、カメルーンに勝ったことで、ベスト16の可能性は大きくなった。本大会直前になって現実路線へとシステム変更をした岡田監督に拍手を贈りたい。

W杯が始まってしまい、ちょっと時代遅れになった感のある本ではあるが、ファンにとって役に立つ情報は十分ある。




posted by 三毛ネコ at 18:56| Comment(0) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月30日

サッカー日本代表システム進化論

「サッカー日本代表システム進化論」      西部 謙司
★★★




1984年からこの本はスタートする。日本代表のフォーメーションの変化とその進歩について記した本である。W杯出場ができなかった頃の代表の取り組み方もよく分かる。

昔の日本代表は、すぐ隣のフリーの味方へのパスがミスパスになることがあったそうだ。また、パスをつないで中央を制するのが難しかったという。今の日本代表ではまず考えられないことである。映像を見ていないのではっきりとは言えないが、日本のレベルアップを実感させる記述である。

1984年から1991年までの説明は、はっきり言って退屈である。知らない選手が多いし、知っていてもそのプレーぶりは見たことがないからだ。面白くなるのは、ハンス・オフトが監督になってからである。彼は、プレーや戦術を明確に言語化できるスキルを持っていた。それまでの指導者がだれもできなかったことである。しかし、強くはなったが、まだW杯に出られるレベルではなかった。

オフトの後が加茂監督。「ゾーンプレス」の人である。この戦術自体は間違っていなかった。しかし、中盤を省略されるとプレスがかからず、アジア相手にはあまり勝てなかった。

その後のいきさつは多くの人が知っているだろう。ジョホールバルの歓喜、初めてのW杯、そしてトルシエジャパンで初の16強へ―トルシエの代名詞、フラットスリーの意図も明らかにされる。単に、最終ラインを上げてオフサイドトラップを誘い、陣形をコンパクトに保つ戦略だと思っていたが、それだけではない。かなりシステマチックになっている。ラインを上げるときも下げるときも必ず3メートルずつ。細かい約束事を作り、それができるように徹底させた。賛否両論あるだろうが、彼のおかげで日本がグループリーグを突破できたのは間違いない。その点は評価できる。

ジーコ時代になると、選手の自主性を重んじ、選手同士の話し合いによってチームの戦い方を組み立てていく。しかし、代表チームは基本的に時間をあまり取れないため、メンバーを固定してチームを作り上げていこうとした。しかし、そのやり方は日本代表には合わなかった。やはり結論としては、日本にはジーコのやり方は早すぎた、ということらしい。

そしてオシム。著者はオシムを高く評価している。「日本のサッカーを日本化する」オシムが常に言っていた言葉である。結局、その完成形を見ることなく、監督は変わってしまった。最後の試合となったエジプト戦(4-1で勝利)でそれまでで最高の試合をしただけに残念でならない。現在の岡田ジャパンの迷走ぶりを見るにつけ、オシムだったら…と思わずにはいられない。岡田ジャパンについては何も言いたくない。次の監督は、モウリーニョやヒディンクのような世界を知っている人物にやってほしい。南アフリカ大会の代表への願いはひとつ。内容のある、恥ずかしくない試合を。それだけである。今のチーム力を考えると、それ以上を求めるのは酷だろう。日本代表のさらなる進化を祈るのみである。




ラベル:サッカー W杯
posted by 三毛ネコ at 14:48| Comment(0) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする