2016年05月21日

AIの衝撃 人工知能は人類の敵か

「AIの衝撃 人工知能は人類の敵か」
★★★



AI(人工知能)が発達すれば、多くの人にとっては便利な世界になることは間違いない。しかし、私は強い危機感を抱いている。その理由は他でもない、今の仕事(産業翻訳)を失うかもしれないからである。現在でもAIは翻訳ソフトに搭載されている。私も試したことがあるが、現時点ではとても使い物にならない。しかし、20年、30年後にはどうなっているか分からない。ある予測によれば、人工知能の発達によって、30年後には現在の仕事の50%がなくなってしまうという。誰にとっても人ごとではないのである。

印象的なのは、アメリカのニーダホッファ兄弟の例である。兄のほうは投資家として成功したのだが、1997年と2007年の2度にわたる取引市場の暴落を読めず大損してしまう。しかし、弟のほうは自分で作った機械学習システムの予測に従って株や国債を売り、難を逃れる。AIが人間を上回った好例である。

また、私が心配しているように、英語と日本語間でもかなり正確な機械翻訳が可能になり、一種の意訳もできるようになるらしい。

心配なのはそればかりではない。AIにはまだ謎が多い。マイクロソフトの研究者がシステムに英語と中国語を学ばせると、その2か国語の語学力は上がった。次にスペイン語を学習させると、スペイン語の語学力も上がった。しかし同時に、なぜか中国語と英語の語学力もさらに上がったというのである。システムの開発者もその理由が分からないらしい。こんなシステムを際限なく開発することが果たして人類のためになるのか。著者はAIの教育のしかたを間違えればどんどん不良化して、最後には手に負えない存在になってしまう危険があると言っている。そうならないように、人間が完全に制御できるようにしておく必要があるだろう。

AIには創造的な仕事はできないと思っていたのだが、実際はそうでもないらしい。エミーというコンピュータ作曲プログラムの作った曲を聴いて感動したり、バッハが作曲したと勘違いした人が多くいたのだ。ならば、人間の存在価値とはどこにあるのだろうか、と考えざるを得ない。

それでも、著者は人間を超える知能を備えたコンピュータやロボットを人類は創り出す、と結論している。人類が抱えている様々な問題は人間だけで解決するのは難しいからだ。だが、人間だけが持つ先見性と懐の深さで私たちはAIとも共存していける、というのが著者の主張である。AIの発達によって暮らしが楽になり、汗水たらして働かなくてよくなるのなら、これほどありがたいことはないのだが。不安も多々あるが、AIの持つプラスの可能性を信じたい。
タグ:人工知能 AI
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2015年02月02日

科学的とはどういう意味か

「科学的とはどういう意味か」                  森 博嗣
★★★★★



理系。文系で,あまりちゃんと理系の勉強をしなかった私は,理系に対してコンプレックスがある。と同時に,あこがれもある。著者は,科学は生きていくために必要不可欠で,日本語と同じくらい重要だと言う。

理系の人間の中にも,「自分は文系なのかな」と考える人たちがいるらしい。人気作家,東野圭吾がまさにそうで,高校生の時は理系科目のほうが得意だったから工学部に入ったが,そこで自分は「えせ理系」であることに気付いたという。本当に理系科目が得意な人たちは,大学の試験もすいすいとこなしていく。しかし,東野のような「えせ理系」人間は,テスト前に集まってなんとか合格点を取ろうと苦労し,必死になっていたらしい。理系が得意だと思い込んでいた人間の悲劇である。

勉強というのは覚えれば覚えるほどバカになる。私の恩師の言葉である。この著者も同じことを言っている。算数ができるというのは式や答えを覚えることではなく,「方法」を学ぶことなのだと。どうしてその子は理解できないのか,どう勘違いしているから正解できないのかを教えるのが教育者だとあるが,全く同感である。私も英語の添削をしていたときは、そういう対応をすることに神経を使っていた。

クイズ番組で漢字の読み方などを早い者勝ちで解答する番組があるが,理系人はそういう番組で活躍している人(例えば,ロザンの宇治原)などを見ても優秀だとは思わないらしい。それよりも,ある方法を習得している人間を評価する。理系人間はその方法ならこのレベルの問題までは任せることができるという考え方をするからである。この記述を読んで,私は完全な文系人間だと思い知らされた。

この本を読んで,理系の考え方は生きていく上で必須であることが分かった。文系の人は一度は読んでおくべき本だろう。
タグ:森博嗣
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2014年10月01日

宇宙は本当に一つなのか

「宇宙は本当に一つなのか-最新宇宙論入門」          村山 斉
★★★★★



宇宙論の入門書。非常に分かりやすく書かれている。天の川銀河の中心にブラックホールがあるということは初めて知った。そして暗黒物質の存在。謎の物質だが,重力があり,周りのものと反応しないらしい。目で見ることもできない。正体は不明だが,なんと,異次元から来たとも考えられているようだ。この物質の正体を突き止めるため,いろいろな試みがなされている。しかし,今のところは分からないことのほうがずっと多いらしい。
 
多次元宇宙,多元宇宙の説明もある。超ひも理論によれば,この宇宙は実は10次元あるという。ただ,異次元は小さすぎて気付かないだけなのだと。

多元宇宙のほうは,私たちの存在している宇宙だけでなく,複数の宇宙があるという考え方である。これについては,マイケル・クライトンの「タイムライン」に分かりやすい説明がある。

著者が最後に言う。「この宇宙はうまくできすぎている」と。同感である。だからこそ,インテリジェント・デザイン論といった考えも出てくるのだ。科学に精通した人ほど創造者の存在を考えざるを得なくなるのも,「インテリジェント・デザイン論」に一理があることを示しているのではないだろうか。
タグ:村山斉 科学
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2013年06月01日

インクジェットの時代がきた

「インクジェット時代がきた! 液晶テレビも骨も作れる驚異の技術」      山口 修一
★★★★★




 インクジェット。この名称を聞いて誰もが思いつくのはプリンターだろう。家でインクジェットプリンターを使っている人は多いはずである。しかし,インクジェットの用途はそれだけにとどまらない。お寺の卒塔婆からクリームののったケーキにまで印刷ができるのだ。

 インクジェットプリンターはレーザープリンターよりもランニングコストが安く,使いやすい。インクジェットだと,必要なところだけにインクを飛ばして印刷するため,無駄なインク代が少ない。

 また,家の外壁に印刷することもできる。余分な在庫を抱えることもないし,ユーザーも外壁を修繕する時,タイル一枚分であっても,全く同じ模様のものを手に入れられる。さらに,インクジェット技術では立体も簡単に作れてしまうのだ。切れば赤い実や種が現れるスイカの模型まで作れる。

 私は「マグネシウム文明論」の書評を書いたところからこの本を知った。前記の本はエネルギー問題と地球温暖化問題を一気に解決できる画期的な技術の紹介だった。それで,この本もたぶんあっと驚くような技術の説明なのだろうと思っていた。読んでみると,確かに画期的である。省資源,省エネルギー,省スペース,省廃棄物。インクジェットなら,これらが一気に実現できる。まだ開発途上の技術なので,すぐに実用化できない分野もある。それでも,この技術は進歩的であり,いろいろな面で応用できる。
 
 本書は,日本が技術大国として再び世界を席巻できる可能性を感じさせてくれた。
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2010年01月16日

悪の遺伝子

「悪の遺伝子」             バーバラ・オークレイ
★★★




性格を決定するのは環境か、遺伝子か。その答えが本書にある。ヒトラー、スターリン、毛沢東。彼らは人格的にかなり問題があったのだが、なぜか人を引きつけ、ある意味で成功をおさめる。著者は彼らのことを「邪悪な成功者」と呼ぶ。この本のデータによれば、サイコパス(反社会的で犯罪者になりやすい人々)はその大部分が遺伝で決まるという。つまり、ヒトラーのクローンはどううまく育ててもヒトラーのような残虐な人間になってしまうということである。私たちの常識では、反社会的人物、あるいは犯罪者は遺伝よりも環境によって作られると考える。しかし、調査の結果は逆なのだ。驚くべきことである。さらに、宗教を信じるかどうかにも遺伝の影響が大きいそうだ。

著者は一貫して、人格は遺伝によって決定される部分が多いと主張する。もしそうなら、環境や教育や本人の努力は何の意味も持たないことになってしまう。サイコパスの遺伝子を持っている子はいくらいい教育を受けてもサイコパスになる。そこには救いがない。サイコパスの子が必ずサイコパスになるなら、遺伝子解析によって差別が行われる危険もある。

しかし、この本には、悪の遺伝子(サイコパスを作り出すような遺伝子)は、他の遺伝子と組み合わさってよい影響を与える場合もあるという。少しホッとする。

それにしても、実に反社会的行動のうちの81%が遺伝によるのである。これが正しければ、私たちはどうすればいいのか。遺伝子レベルの治療に希望を見出すしかないだろう。幼いころに遺伝子解析によって反社会的かどうかを見極め、遺伝子治療を受けさせるようにすれば、サイコパスによる凶悪犯罪も減らすことができ、もっと平和な社会が出現するだろう。もちろん、差別がされないように気を使う必要はあるが。

前半までは私たちの常識を覆す衝撃的な事実を教えてくれ、興味深い。




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2010年01月02日

マグネシウム文明論

今年最初の書評です。今年もよろしくお願いします。



「マグネシウム文明論」            矢部 孝
★★★★★




マグネシウムが人類を救う。そう言われたら、あなたはどう思うだろうか。しかし、これは事実である。石油はあと40年ほどでなくなってしまう。その時、私たちはどうすればいいのだろうか。その答えがマグネシウムである。太陽熱や水素、風力発電などは主要なエネルギー源にはなり得ない。効率が悪いのだ。しかし、マグネシウムは海水の中にあり、10万年分の貯えがある。さらに、使ったマグネシウムはもう一度リサイクルして使うことができる。つまり、無限にエネルギーとして使えるということである。 燃料として使うときも、リサイクルするときも、一切二酸化炭素は出さない。あのトヨタもマグネシウム空気電池車の開発に乗り出したという。

唯一の問題はコストである。マグネシウムは、石油などに比べて値段が高いのだ。しかし、それはマグネシウムが大量に市場に供給されれば解決するだろう。

毎日新聞で読んだのだが、実は現在、大阪大学で人工的に光合成をして二酸化炭素を減らし、できた水素をエネルギーとして使おうという試みがなされている。この方法は完成が近いそうだ。ただ、できた水素を扱いやすい蟻酸に変えて使おうという考えなのだが、それがまだ成功していないらしい。そこがクリアできればこの研究は完成する。しかし、この本を読むと、マグネシウムは扱いが簡単で、実験でも計画通りうまくいっている。この方法は完成しているといってもよい。近い将来、マグネシウムによるエネルギー循環型社会は実現できそうである。技術的な障害もない。この本を読む限り、マグネシウムをエネルギーとして使うほうが簡単で、実現が速そうである。

この本を読めば、地球温暖化とエネルギー問題を一気に解決できるという希望を持てる。日本が循環型社会をリードして作っていけそうなことは喜ばしい限りである。




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2007年07月18日

カオス 新しい科学を作る

「カオス 新しい科学を作る」      Jグリッグ
★★★★



 カオス理論について解説した本。カオス理論とは、一言で言えば不規則に変化するある種のふるまい(株価、天気の長期予報など)は絶対に予測不可能という理論である。

 特に印象に残ったのが、「広い範囲のリズムに適応できるフラクタル構造が健全な力学系だ」という文章である。要するに、絶えず変化する不安定な状態こそが、いろいろな変化に対応できる正常なものごとのふるまいだということである。

 フラクタルとは、自然界に多くみられる自己相似形を持った図形である。たとえば、富士山の写真を撮るとする。そして、その写真の富士山の一部を拡大すると、富士山の稜線と同じ図形が見られるのだ。さらにその一部を拡大すると、また同じ形の稜線が見られる。これをフラクタルと言う。

 上に引用した文章は、人間の精神にも当てはまるのではないだろうか。人間の感情は絶えず変化し、同じ状態であり続けることはない。しかし、精神的に不健康な人間はあるひとつのものごとにとらわれ続けることがある。そのことによって、柔軟性が失われ、変化に対応できなくなってしまう。従って、精神状態が絶えず変化し、不安定なほうがかえって状況に適応でき、健康だと言える。この本には、むしろカオス状態(不安定な状態)が健康だという意見が述べられている。この考えは、森田療法というある精神療法の理論とも一致する。ものごとの本質は案外似かよっているものである。

 全体としては、カオス理論とは、細分化され、高度に専門化した現代科学をひとつに結びつけるものではないかと感じた。そこに、宇宙の本質さえ見えてくるようである。

 この本のカオス理論は、「ジュラシック・パーク」でも重要なキーワードになっている。読んだ人はぜひ、この本もあわせて読んでほしい。面白さが増すことは間違いない。
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2007年07月11日

脳と仮想

「脳と仮想」               茂木 健一郎
★★★★



 新進気鋭の脳科学者による、脳と仮想についての論考。
 
 この本の中で、著者は現実から浮遊した仮想の自由さについて述べている。考えてみれば、私たちの生活に仮想がなければ、ずいぶん味気ない、面白みのない世界になってしまうだろう。そこには、小説も映画もマンガもゲームも、何一つ存在し得ない。そうしてみると、仮想の重要性がよく分かる。私たちは仮想の世界に遊ぶことで息抜きをし、現実社会との折り合いをつけているのである。この著者はテレビゲームもやっており、それを否定はしない。ゲームのような仮想と、現実とを行き来するすべを私たちが学びつつあるととらえている。そこからは、批判が多いテレビゲームなどからもそのプラス面を読み取ろうとする、気鋭の脳科学者ならではの貪欲さが感じられる。
 
 仮想は人間にとって重要などという程度のものではない。なくてはならないものと言っていい。マイケル・クライトンという作家がいる。彼は、その作品の中で言い切っている。人間を他の動物と異ならせているのは、道具を使えることではなく、言語を持っていることでもなく、ただひとつ−想像力なのだと。これは正しい。私たちは想像力によって共産主義を考え出し、核兵器を生み出し、映画やゲームを作ってきたのである。仮想は想像力の産物であり、想像=仮想ということができる。それなら、仮想こそ人間を人間らしくしている唯一の力だといえる。しかし、それは諸刃の剣でもある。人間は、仮想をコントロールしようとはしないからだ。素晴らしいことと同時に、危険なことも考える。それが文明・文化の発展につながり、同時に人間を恐ろしい存在にもしてきたのだ。そういう意味で、これからの人類に求められるのは、仮想を制御する能力であろう。
 
 仮想についての考察は、いろいろなことを考えさせてくれて、非常に面白い。
タグ:小林秀雄賞
posted by 三毛ネコ at 06:40| Comment(0) | TrackBack(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする