2020年07月04日

物語の持つ力を感じさせてくれる1冊です。

「ノエル―a story of stories―(新潮文庫)」      道尾 秀介
★★★★★



短編小説と思ったのですが、読み終わってみると、長編ミステリーでした。

・ 光の箱 童話作家の圭介。現在の世界と、圭介が書いた童話が入り交じりながら、物語は進行する。

圭介は、子供の頃貧乏を理由にいじめられていた。そんな中、同級生の弥生と出会い、一緒に一冊の絵本を作る。

2人は同じ高校に進学し、付き合うようになる。その高校で、圭介は夏美という生徒と友達になる。弥生と夏美は友達で、夏美と圭介が友達になったことも知っていたのだが、ある時、圭介を取られるのではないかという気持ちから、とんでもないことをしてしまう。そのことは、圭介と弥生だけの秘密になる。そして、弥生の側からの真実も語られる。

そして現在、2人は同窓会へと向かう。果たして、圭介と弥生の人生の行方は・・・

・ 暗がりの子供 前作とつながっている。主人公の莉子が図書館から借りてきた絵本が、圭介と弥生が作った本だったのだ。

しかし莉子は、その本をバスの中に置いてきてしまう。そこで、ノートに自分で考えた続きの話を書いていくのだ。その物語の声は、莉子の考えを恐ろしい方向へと誘導するが、莉子はその内なる声に従ってしまうのか・・・?

・ 物語の夕暮れ 子供たちにボランティアで自分が作った話の読み聞かせをしている与沢さん。もうすぐ、それも辞める予定である。この話も、圭介とつながっている。与沢が生まれ育った家に、現在圭介が住んでいるのだ。現在の与沢と昔の思い出とが交互に描かれる。

与沢が住んでいるマンションのベランダで、彼はベランダの水滴に映る風景が、故郷の景色にそっくりなことを発見する。そして彼は、圭介に故郷の祭り囃子を電話で聞かせてくれるように頼む。ノスタルジーに浸る与沢。

そして、現実なのか作り話なのかはっきりしないまま、物語はフェードアウトしていく―。

最後にエピローグ。今までの物語がすべてつながり、納得できると共に、暖かみのあるエピローグである。

ショッキングな場面もあるが、全体としてはうまく3つのパートをつなげた長編ミステリーとなっている。物語の持つ力を十分に感じさせてくれる小説である。
ラベル:小説 道尾秀介
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2008年02月17日

時生

「時生」                  東野 圭吾
★★★★



主人公は拓実。時生という彼の息子が難病により意識不明になったとき、彼は妻にある経験を語る。トキオと呼ばれる不思議な青年との二人旅について。それは、二人のルーツを探る旅でもある。21世紀の私たちから見れば、ちょっとノスタルジックな雰囲気を醸し出しながら物語は展開してゆく。拓実の元恋人がトラブルに巻き込まれ、それを中心に物語は進む。と同時に、拓実の両親のこともだんだん分かってくる。そして、すべてが終わった時、私たちの心は、ほんのり暖かくなっているだろう。すこしだけ、プラスの言葉を信じられるようになっているかもしれない。

親子がこの小説の中心となるテーマである。この物語に出てくる親子関係は、決してベストと言えるようなものではない。それどころか、ちょっと見ただけでは、悪いほうの見本と言ってもよい。しかし、どんなにこじれていても、やはり親子のきずなは切ることができない。親の本当の思いを知った時、拓実がどう変わるか―それは、読んでからのお楽しみ。私は、この本を読んで、弁護士の大平光代さんを思い出した。彼女は10代で非行に走り、ついにはヤクザと結婚までしてしまう。当然、親子関係はいいはずもなく、絶縁状態だったようだ。しかし、彼女が立ち直り、まともな人生を歩み始めたとき、両親は彼女を許すのである。詳しくは書かれていないが、そこからは、親の愛の偉大さを感じずにはいられない。個食や、携帯の普及などで家族の孤立化が進み、一番大事で基本的な家族関係が変容しつつある今、この小説は私たちが失ったなにかを取り戻させてくれることだろう。
ラベル:東野圭吾 小説
posted by 三毛ネコ at 14:16| Comment(2) | TrackBack(0) | ファンタジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする