2016年04月09日

大局観 自分と闘って負けない心

「大局観 自分と闘って負けない心」                  羽生 善治
★★★★



私は一時期将棋にはまっていた。今でも新聞の将棋欄は欠かさずチェックする。そういうわけで,年齢を重ねても一流であり続ける羽生の強さの秘密を知りたくてこの本を手にした。

羽生は「直観」「読み」「大局観」の3つを使って戦うという。彼は一手一手をベストの手と思って指すという。その点では,升田幸三の考えに似ている。

大局観とは,全体を見渡し,どうすべきかを大まかに決めるということだ。これは他の分野の仕事でも重要である。たとえばサッカーでも,周りだけを見ている選手と,俯瞰的に状況を見ている選手ではプレーの質が違ってくるらしい。

また,羽生は「続けること」が才能だと語っている。全く同感である。私は英語を勉強して翻訳者になったが,語学というのは正しい方向で努力していれば必ず力が伸びる。他の分野は知らないが,少なくとも英語に関しては頭の良さも語学センスも全く関係ない。努力あるのみである。唯一必要なのは「ずっと続けること」。力がついてくるにつれて,それをひしひしと感じる。

さらに,将棋にもプラトー(進歩が全く感じられず,一時的に足踏み状態にあること)があるという記述は意外だった。英語にもそれはあるのだ。技能の習得という面で,共通するところがけっこうあるようだ。

さて,この本では主に直観,ツキ,情報の整理など羽生が考えたことを1章ごとにまとめている。稀代の棋士の考えを知ることは,なかなか面白い。
posted by 三毛ネコ at 11:34| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月04日

たぶん最後の御挨拶

「たぶん最後の御挨拶」          東野 圭吾
★★★★
 


ご存知、直木賞作家の数少ない、そして最後の(?)エッセイ。小説にはあまり見られないが、全体的に関西人らしいユーモアがあふれており、非常に読みやすい。これまでの経歴や思い出、好きなものなどがくだけた口調で語られる。

会社員時代に書いた、しかも下書きもなしにいきなり書き始めた第一作が江戸川乱歩賞の2次選考まで通ったということには驚かされる。「才能」としか言いようのないものがこの世には存在するのだ。

「鳥人計画」が吉川英治文学新人賞の候補になったという出来事も興味深い。私はこの作品ではじめて東野圭吾のことを知った。いわゆる本格推理でない広義のミステリーを読んだのは初めてだった。テーマが私の好きなスポーツということもあり、すごく新鮮でワクワクしながら読んだことを覚えている。この本で彼のファンになり、だいたいの作品は読んだ。忘れられないと同時に、お薦めの小説である。

東野は、このエッセイで好きな映画を10作品挙げているのだが、正直言ってがっかり。答えが当たり前すぎるのだ。やはり彼は学生時代の成績オール3の普通人なのか、と感じてしまった。

最近の東野は、本格推理を離れて、もっと大きなテーマのミステリーを書くようになった。前述のとおり、私には彼の「鳥人計画」が面白かったので、本格推理より広義のミステリーのほうが好きである。したがって、このような変化は大歓迎だ。それだけ、彼が経験を積み、人間として成熟してきたということかもしれない。成熟したからこそ、人間の悪意や加害者の家族について考えるようになり、視野が広がってきて、より深みのある作品を書けるようになったのだろう。

本嫌いなのに作家になってしまったという記述や、学生時代国語の成績がものすごく悪かったという話も面白い。それでよく作家になれたものだ。あるジャンルの本が好きで、それをたくさん読んでいればその分野の小説が書ける、と聞いたことがある。本嫌いが作家になれるはずがないのだが、これも才能のなせる業だろうか。

しかし、文学賞落選記録15回といえば相当な数である。才能のある彼でさえ、直木賞を取るのにデビューから20年ぐらいかかっているのだ。それに比べれば、私が今目指している英検一級などは大したことはない、努力すれば必ず取れるのだ、と励まされた気分になった。

東野がミュージカル好きであることや、猫好きであることなど、意外な事実も明かされる。特に、前半の「年譜」は面白いので、東野ファンはぜひ読んでみてほしい。
タグ:東野圭吾
posted by 三毛ネコ at 10:30| Comment(3) | TrackBack(3) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする