2020年03月14日

織田信長を主人公にした小説です。ちょっと変わった趣向を取り入れ、面白い話に仕上がっています。

「信長の原理」              垣根 涼介
★★★★



織田信長は乳児の頃から癇が強かった。気に入らないことがあれば泣き叫ぶ。成長してもこの性格が変わることはなかった。

子供の頃から、信長は問題児だった。しきたりや世間の常識になじめず、世間がこうだから自分もこうしなければならないのはなぜか、世間の物差しは正しいのかなどと考えていた。

13歳で元服し、15歳で斎藤道三の娘と結婚する。

信長が育った織田弾正忠家では、跡継ぎを巡って信長派と弟、信勝派が対立していた。そんな中、父の信秀が急死する。

たいていの人が知っているように、信長は平時には奇行を繰り返すのだが、戦では評価されていた。家臣に対しても厳しいだけでなく、職務に忠実で懸命に励めば、意外に寛大でもあった。

信長は子供の頃、アリを観察して一生懸命働くのは全体の2割、何となく働くのが6割、怠けるのが2割だという発見をしていた。そして、この分類法は人間にも当てはまった。そこで、戦で全員が必死に働くように、直属の部下を雇って徹底的に訓練したのだ。しかし、その軍勢でも、やはり2:6:2に分かれてしまう。訓練して、サボる2割はいなくなったが、一生懸命戦うのは2割しかいない。そのことにいらだちを覚える信長だった。

しかし、弟の信勝を排除する時には、さすがにためらいがあったようだ。弟を憎んでいたわけではなかった。殺すという決断には心理的ダメージが大きかった。その後、信長は尾張を平定し、勢力を広げていく。有名な今川義元との一戦にも勝利する。

戦には金がかかる、と信長は考える。その軍資金を手に入れるために、干拓をし、田畑を広げ、人がたくさん入ってくるようにしようというのだ。ヒト、モノ、カネを回転させ、商業を発展させて豪商を生み出し、金を蓄える。その思惑通り、尾張は武田家や上杉家とも遜色のない富を得た。

信長が発見した2:6:2の法則には、豊臣秀吉も信長に雇われる前に気づいていた。尾張一国を手に入れた後、信長はたまたまアリの巣を見つけ、ある実験を行う。その結果は、予想通りのものだった。自分の思うとおりにしたいと思う信長だが……。

その後は、誰もが知っているように物語は展開していく。

「光秀の定理」でもそうだったが、この著者の歴史小説は、ちょっと変わった概念を誰もが知る話に取り入れ、ストーリーに変化をつけていることである。それにより、ありきたりの話が魅力的な物語に変わっている。そんな独自の世界観を堪能できる小説だった。
ラベル:小説 垣根涼介
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2020年02月29日

江戸時代の碁打ちの物語です。囲碁はあまり知らないのですが、それでも楽しめました。

「幻庵」                百田 尚樹
★★★★★





2016年3月、グーグルのAI囲碁ソフト「アルファ碁」がトッププロ、イセドルに勝った。そのこと自体は驚くべきことだが、アルファ碁は60億円の開発費をかけ、最新のCPU1202台とGPU176台を使って完成した。それだけの金と手間をかけなければ人間には勝てなかったということだ。それだけ、囲碁はレベルの高いゲームなのだ。

その囲碁を題材としたこの作品。主人公は幻庵。幼名を吉之助という。江戸時代の碁打ち、服部因淑に見いだされ、その弟子になる。因淑は強い打ち手だったが、坂口仙知という少年と打ち、19歳で自分が碁打ちの頂点に立てないことを悟ってしまうのである。勝負の世界とは残酷なものだ。

さて、吉之助は順調に強くなり、初段の免状を受け、「因徹」の名をもらう。そしてその後、服部因淑の養子になる。

しかしその前に、桜井知達という天才少年や、本因坊家の奥貫知策などが立ちはだかる。立徹(因徹の後の名前)は才能溢れる少年だったが、常に最強手を打っていた。そのため、時にそれは危険な手となり、勝負に負けることもあった。しかし、立徹の目標は古今無双の名人になることだった。そのために、三日三晩寝ずに碁を打ち続けたこともあったという。すさまじい努力である。

そんな立徹の悪敵手(好敵手ではない)が本因坊家の丈和である。丈和は遅咲きの棋士だったが、愚直に努力し、20歳を過ぎてからも力が伸びていた。

そんな2人の丁々発止の戦いが描かれる。立徹(後の幻庵)は名人になれるのか。そして、丈和はどこまで立徹に太刀打ちできるのか。名人碁所(ごどころ)を狙って、2人の思惑が激突する……。今では本因坊が最高のタイトルであるが、当時は名人碁所が最高位だった。

碁打ちがテーマの小説なので、コスミ、ケイマ、ツケなど専門用語も出てきて素人には理解の及ばないところもあるのだが、全体的には興味深く読める。上巻の最後に、専門用語の説明もある。

たとえが分かりやすく、碁の知識がなくても読めるのだ。まるで剣豪同士の戦いを見るように、強豪同士の碁を楽しめる。

囲碁の世界は奥深い。そこに命を賭けた男たちの人生をまざまざと見せつけられた小説であった。
ラベル:小説 囲碁
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2020年02月22日

物理学者の著者がキリスト教と科学者について述べた本。宗教くさくなく、客観的に書かれています。

「科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで」  三田 一郎
★★



私はクリスチャン(プロテスタント)である。しかし、この本のレビューで自分の信仰を押しつけるつもりはない。できるだけ客観的にレビューしようと思っている。

しかし、いきなり気になる記述が。キリスト教にある三位一体の神の説明で、父(神様)と子(イエス)、精霊が一体となって初めて神である、という説明はいいのだが、イエスがこの世界を創った、という説明は間違っている……のだが、宗教くさくならないように、ここは置いておいて先へ進もう。

2章からは、ホーキングやアインシュタインなど、著名な科学者にとっての神を説明していく。

地動説を初めて唱えたコペルニクスはカトリックの司祭だった。彼の説は、最初は否定された。しかし、ガリレオ・ガリレイ(カトリック信者)がコペルニクスの正しさを証明した。

ガリレオは、万物の創造主である神がなぜ宇宙をこのように創ったのかを知るには、「もう一つの聖書」である数学を知る必要があると考えたのだ。だが、裁判にかけられ、自説を放棄したのは皆さんご存じの通りである。

「万有引力の法則」で有名なニュートンも、実はキリスト教の信者だった。その後、「マクスウェル方程式」をまとめたマクスウェルまではクリスチャンなのだが、アインシュタインから後の科学者は進化論者(つまり、無神論者)である。

私は聖書を読んでいるが、現代の科学では説明できない奇跡や予言なども多く記されている。科学が発達すればするほど、そのギャップは大きくなるだろう。宗教は科学にはなじまない。予言や奇跡を信じられなければ、クリスチャンにはなれないのだ。この本は、クリスチャンの物理学者が書いているため、割と客観的にキリスト教と科学者について述べている。

クリスチャンとしては不満が残るが、そうでない人は一読してみてもいいだろう。
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2019年11月02日

室町時代を生きた3人の男の物語です。

「室町無頼」                垣根 涼介
★★★★★





時は室町時代。主人公は才蔵である。

室町幕府の将軍、足利義教を殺した赤松満祐の家臣が、才蔵の父だった。しかし、赤松はすぐに倒され、才蔵の父は牢人になってしまった。

その後生まれたのが才蔵である。父親に定職はなく、才蔵は小さい頃から食うにも困っていた。そのため、12歳で働き始める。その後、油の振り売りをするようになる。その仕事の途中で追い剥ぎに遭い、何回か撃退した。その腕を買われ、土蔵の用心棒になる。

ある日、その土蔵に賊が侵入する。才蔵たちは応戦するが、相手の数が多く、才蔵だけが後に残った。才蔵も賊の首領に負けてしまう。しかし、その男……骨皮道賢はなぜか才蔵を殺さず、自分の拠点に連れて帰った。そして道賢は、才蔵を蓮田兵衛という男に預ける。

兵衛の家に居候することになった才蔵。兵衛について行き、その行いをつぶさに見ることになる。兵衛は関所で金を払わず、止めようとする者を全て切り捨てる。その上、関所の金を奪っていく。その一方で、百姓や地侍には親切に相談事を聴いてやる。才蔵、兵衛、道賢……やがて、この3人が大きな事を起こすことになる。

兵衛は、才蔵に師匠を付け、竹生島流と呼ばれる棒術を学ばせると言う。そして10か月間、才蔵は棒術を学ぶ。このあたりから面白くなってくるので、ここから先は触れない。

この小説で最も興味を引かれたのは、才蔵が修行を積み、成長していく過程だった。しかし、前作(光秀の定理)でも感じたが、この著者の時代小説には独特の雰囲気がある。上っ面ではなく、この時代の底を流れる真理、本音のようなものが作品全体に感じられる。それが、ハードボイルド小説を思わせる。そんな雰囲気を含めて、なかなか楽しめるエンタメ時代小説だった。
ラベル:小説 垣根涼介
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2019年08月18日

明智光秀の人生に2人の人物が大きく関わっていたというフィクションです。こんな展開にするのか、と感心しました。

「光秀の定理」               垣根 涼介
★★★★★



垣根涼介のクライム・ノベルは好きである。その著者が時代小説を書いたと知り、読もうと思った。

場所は京都。辻斬りのようなことをしてわずかな金を稼ぐ兵法者、新九郎、辻博打で食べている坊主、愚息。そして十兵衛の3人が出会う。十兵衛―明智光秀は土佐源氏の流れを組む者で、京で私設外交官のような仕事をしていた。しかし、国許の明智氏は滅ぼされ、光秀も今は細川藤孝の屋敷に居候し、貧しい暮らしをしている。

最初は新九郎が光秀に対して追い剥ぎのような真似をするのだが、それが縁で愚息と新九郎は光秀の家の茶の席に招かれる。事の顛末を訊いていた細川藤孝も同席する。それ以来、光秀は愚息、新九郎と親しくなり、敬称をつけずに呼び合う間柄になる。光秀はたびたび愚息を家に招き、話を聞く。

この愚息という坊主、なかなかの知恵者であるようだ。なんでも、仏教を学びに異国に行ったこともあるという。一筋縄ではいかない人物である。

ある時、新九郎たちが住んでいる村に賊が現れる。村人たちに頼まれて、その連中を退治した新九郎。と、村人たちの態度ががらりと変わり、兼定という名刀をお礼に持ってきた。そして、村人たちに剣術を教えてやってほしいと言う。

米3合の報酬と共に引き受けた新九郎だったが、意外にも自分にモノを教える才能があることに気づく。そして、新九郎自身の剣術の上達にも役立っていく。新九郎の道場が有名になるほど、道場破りの剣術家も現れるようになるが、新九郎はその全ての勝負に勝つ。そして、自身が「笹の葉流」と名付けた剣法から、笹の葉新九郎と呼ばれるようになる。このあたりのくだりは剣豪小説を読んでいるようで、非常に面白い。

愚息と新九郎は架空の人物だが、この2人の存在によってこの物語はぐっと魅力的になっている。

その後、誰もが知るように光秀は信長に仕えるのだが、そこで愚息がしていた博打にそっくりな状況に出くわす。ここが、このストーリー最大の見せ場である。光秀は、その賭けに勝つことができるのか……。

垣根涼介の作品はクライム・ノベルしか読んだことがなかったのだが、時代小説にもその才能はいかんなく発揮されている。新しい光秀像を垣間見せてくれた興味深い本だった。
ラベル:垣根涼介 小説
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2019年01月26日

幕末の政治家、山岡鉄舟の話です。サクサク読めました。

「荒海を渡る鉄の舟」               鳥羽 亮
★★★★



幕末の政治家にして剣術家でもあった山岡鉄舟の物語である。

少年のころの鉄太郎(後の鉄舟)は剣術の稽古に熱心だった。その才能を見抜いた父、高福(たかよし)は千葉周作門下の実力者、井上清虎に来てもらうように頼み、鉄太郎に稽古をつけてもらった。しかし、それからまもなく、父と母が次々に亡くなってしまう。ショックを受ける鉄太郎。仕方なく、江戸の兄の下に身を寄せる。そこで、井上と再会し、千葉道場に入門することになる。

そのころには、鉄太郎は井上とも互角に闘えるようになっていた。その後の激しい稽古で、師範代の栄次郎ともほぼ互角に打ち合えるようになっていった。その後、鉄太郎は山岡静山という槍の達人からも学ぶようになる。しかしその数か月後、静山はトラブルに巻き込まれて命を落とす。

それから、静山の弟、謙三郎から言われて静山の娘、英子と結婚し、山岡家を継ぐことが決まる。その後、禅の修行もするようになった鉄太郎。しかし、時代は幕末であり、否応なく幕府や尊王攘夷派の動きに巻き込まれていく。そんな中でも剣術の稽古を再開する鉄太郎であった。

後に鉄太郎は幕末の歴史において重要な役割を果たす。

鳥羽亮の本は初めて読んだが、剣道の経験があり、剣豪小説の第一人者だという。そのせいか、剣道の立ち会いの描写にもリアリティがある。また、非常に読みやすく、夢中になって読める。幕末の歴史の復習にもなり、まあまあ有益な読書だった。
ラベル:鳥羽亮 小説
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2019年01月12日

戦の国

「戦の国」                 冲方 丁
★★★★



長編小説かと思って読んでみると、短編集だった。

・覇舞謡 時は戦国時代。織田信長は、ようやく尾張の国を平定したばかりだった。しかし、そこへ今川軍が攻めてくる。信長軍の兵力2000強に対し、今川軍は4万。そのままでは到底勝ち目はないが、信長は一体どうやってこの劣勢を跳ね返して勝利したのか。その実情が描かれる。

・五宝の矛 次の話は越後。長尾景虎―後の上杉謙信が越後の国主大名となる。その描写から、景虎がどれだけ才能あふれる武将だったかが分かる。しかも、景虎は国内をまとめるため、出家すると宣言する。果たして、景虎の先行きはいかに?そして宿敵、武田信玄に勝つために編み出した戦法は機能するのか。

・純白き鬼札 明智光秀の話である。光秀は信長に仕える前、朝倉義景のところにいた。そこから信長と出会い、家臣になるのだ。光秀がキンカンというあだ名を付けられていたことは初めて知った。また、光秀は信長に足蹴にされて謀反を起こすのだが、謀反の本当の理由は一般に知られているようなものではなかった。独自の解釈が面白い。

・燃ゆる病葉(わくらば) 豊臣秀吉配下、大谷刑部吉継。人格者だったらしい。今で言うハンセン病にかかったようだが、その能力は衰えることなく、秀吉のために粉骨砕身した。石田三成と親しく、秀吉亡き後、石田側に付くように頼まれるのだが、さて吉継の決断は。

・深紅の米 小早川秀秋。言うまでもなく、関ヶ原の戦いで豊臣方を裏切った武将である。この短編では、秀秋は利発だったが、生き延びるために暗愚を装ったようである。裏切って家康側に付くまでの経緯は、フィクションかもしれないが、なかなか楽しめる。

・黄金児 最後は豊臣秀頼である。ここでは、意外な秀頼像が描かれている。

すべて戦国時代の話で、1ページ目で「あの話か」と展開と結末が予想できてしまう作品もあるのだが、独特の表現と迫力ある描写で、楽しみながら最後まで読み通せる物語になっている。
ラベル:小説 冲方丁
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2016年07月11日

覇王の番人

「覇王の番人」                        真保 裕一
★★★★★



少し前、歴史がブームだった。歴女なるものも存在した。そのブームに乗ったわけではないだろうが、著者初めての歴史小説である。主人公は明智光秀。光秀といえば、戦国時代のスターである信長を裏切って殺したというマイナスのイメージが強い。

光秀はなぜ信長を裏切ったのか。この小説では、冷酷な信長に対して、光秀は慈悲深い武将として描かれている。しかし、ある出来事をきっかけに信長がいなければ…と考えるようになる。この作品では、これまでにない歴史解釈をしている。単なる歴史ブームに乗っかった本ではない。

この小説を読むと、光秀がまるで正義を貫いた男といった印象を受ける。本当にそうならば、これまでの歴史観がくつがえされることになるだろう。光秀が優れた武将であったことは間違いないようだ。しかし、味方とすべき人物を間違えたことが敗因となった。

この小説が真実かどうかは別として、歴史はドラマチックだと改めて思う。特にこの本の時代(戦国時代)は個性豊かな武将が多数現れ、その駆け引きや戦いは非常に面白い。星新一のショートショートに、歴史がここまでドラマチックなのは「歴史の神がいてカギとなる人物に指示を出していたから」と結論付ける作品がある。本書のような小説を読むと、さもありなんと思ってしまうほどこの時代は魅力的である。「歴女」にお勧め。
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