2019年11月02日

室町時代を生きた3人の男の物語です。

「室町無頼」                垣根 涼介
★★★★★





時は室町時代。主人公は才蔵である。

室町幕府の将軍、足利義教を殺した赤松満祐の家臣が、才蔵の父だった。しかし、赤松はすぐに倒され、才蔵の父は牢人になってしまった。

その後生まれたのが才蔵である。父親に定職はなく、才蔵は小さい頃から食うにも困っていた。そのため、12歳で働き始める。その後、油の振り売りをするようになる。その仕事の途中で追い剥ぎに遭い、何回か撃退した。その腕を買われ、土蔵の用心棒になる。

ある日、その土蔵に賊が侵入する。才蔵たちは応戦するが、相手の数が多く、才蔵だけが後に残った。才蔵も賊の首領に負けてしまう。しかし、その男……骨皮道賢はなぜか才蔵を殺さず、自分の拠点に連れて帰った。そして道賢は、才蔵を蓮田兵衛という男に預ける。

兵衛の家に居候することになった才蔵。兵衛について行き、その行いをつぶさに見ることになる。兵衛は関所で金を払わず、止めようとする者を全て切り捨てる。その上、関所の金を奪っていく。その一方で、百姓や地侍には親切に相談事を聴いてやる。才蔵、兵衛、道賢……やがて、この3人が大きな事を起こすことになる。

兵衛は、才蔵に師匠を付け、竹生島流と呼ばれる棒術を学ばせると言う。そして10か月間、才蔵は棒術を学ぶ。このあたりから面白くなってくるので、ここから先は触れない。

この小説で最も興味を引かれたのは、才蔵が修行を積み、成長していく過程だった。しかし、前作(光秀の定理)でも感じたが、この著者の時代小説には独特の雰囲気がある。上っ面ではなく、この時代の底を流れる真理、本音のようなものが作品全体に感じられる。それが、ハードボイルド小説を思わせる。そんな雰囲気を含めて、なかなか楽しめるエンタメ時代小説だった。
ラベル:小説 垣根涼介
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2019年08月18日

明智光秀の人生に2人の人物が大きく関わっていたというフィクションです。こんな展開にするのか、と感心しました。

「光秀の定理」               垣根 涼介
★★★★★



垣根涼介のクライム・ノベルは好きである。その著者が時代小説を書いたと知り、読もうと思った。

場所は京都。辻斬りのようなことをしてわずかな金を稼ぐ兵法者、新九郎、辻博打で食べている坊主、愚息。そして十兵衛の3人が出会う。十兵衛―明智光秀は土佐源氏の流れを組む者で、京で私設外交官のような仕事をしていた。しかし、国許の明智氏は滅ぼされ、光秀も今は細川藤孝の屋敷に居候し、貧しい暮らしをしている。

最初は新九郎が光秀に対して追い剥ぎのような真似をするのだが、それが縁で愚息と新九郎は光秀の家の茶の席に招かれる。事の顛末を訊いていた細川藤孝も同席する。それ以来、光秀は愚息、新九郎と親しくなり、敬称をつけずに呼び合う間柄になる。光秀はたびたび愚息を家に招き、話を聞く。

この愚息という坊主、なかなかの知恵者であるようだ。なんでも、仏教を学びに異国に行ったこともあるという。一筋縄ではいかない人物である。

ある時、新九郎たちが住んでいる村に賊が現れる。村人たちに頼まれて、その連中を退治した新九郎。と、村人たちの態度ががらりと変わり、兼定という名刀をお礼に持ってきた。そして、村人たちに剣術を教えてやってほしいと言う。

米3合の報酬と共に引き受けた新九郎だったが、意外にも自分にモノを教える才能があることに気づく。そして、新九郎自身の剣術の上達にも役立っていく。新九郎の道場が有名になるほど、道場破りの剣術家も現れるようになるが、新九郎はその全ての勝負に勝つ。そして、自身が「笹の葉流」と名付けた剣法から、笹の葉新九郎と呼ばれるようになる。このあたりのくだりは剣豪小説を読んでいるようで、非常に面白い。

愚息と新九郎は架空の人物だが、この2人の存在によってこの物語はぐっと魅力的になっている。

その後、誰もが知るように光秀は信長に仕えるのだが、そこで愚息がしていた博打にそっくりな状況に出くわす。ここが、このストーリー最大の見せ場である。光秀は、その賭けに勝つことができるのか……。

垣根涼介の作品はクライム・ノベルしか読んだことがなかったのだが、時代小説にもその才能はいかんなく発揮されている。新しい光秀像を垣間見せてくれた興味深い本だった。
ラベル:垣根涼介 小説
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2019年01月26日

幕末の政治家、山岡鉄舟の話です。サクサク読めました。

「荒海を渡る鉄の舟」               鳥羽 亮
★★★★



幕末の政治家にして剣術家でもあった山岡鉄舟の物語である。

少年のころの鉄太郎(後の鉄舟)は剣術の稽古に熱心だった。その才能を見抜いた父、高福(たかよし)は千葉周作門下の実力者、井上清虎に来てもらうように頼み、鉄太郎に稽古をつけてもらった。しかし、それからまもなく、父と母が次々に亡くなってしまう。ショックを受ける鉄太郎。仕方なく、江戸の兄の下に身を寄せる。そこで、井上と再会し、千葉道場に入門することになる。

そのころには、鉄太郎は井上とも互角に闘えるようになっていた。その後の激しい稽古で、師範代の栄次郎ともほぼ互角に打ち合えるようになっていった。その後、鉄太郎は山岡静山という槍の達人からも学ぶようになる。しかしその数か月後、静山はトラブルに巻き込まれて命を落とす。

それから、静山の弟、謙三郎から言われて静山の娘、英子と結婚し、山岡家を継ぐことが決まる。その後、禅の修行もするようになった鉄太郎。しかし、時代は幕末であり、否応なく幕府や尊王攘夷派の動きに巻き込まれていく。そんな中でも剣術の稽古を再開する鉄太郎であった。

後に鉄太郎は幕末の歴史において重要な役割を果たす。

鳥羽亮の本は初めて読んだが、剣道の経験があり、剣豪小説の第一人者だという。そのせいか、剣道の立ち会いの描写にもリアリティがある。また、非常に読みやすく、夢中になって読める。幕末の歴史の復習にもなり、まあまあ有益な読書だった。
ラベル:鳥羽亮 小説
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2019年01月12日

戦の国

「戦の国」                 冲方 丁
★★★★



長編小説かと思って読んでみると、短編集だった。

・覇舞謡 時は戦国時代。織田信長は、ようやく尾張の国を平定したばかりだった。しかし、そこへ今川軍が攻めてくる。信長軍の兵力2000強に対し、今川軍は4万。そのままでは到底勝ち目はないが、信長は一体どうやってこの劣勢を跳ね返して勝利したのか。その実情が描かれる。

・五宝の矛 次の話は越後。長尾景虎―後の上杉謙信が越後の国主大名となる。その描写から、景虎がどれだけ才能あふれる武将だったかが分かる。しかも、景虎は国内をまとめるため、出家すると宣言する。果たして、景虎の先行きはいかに?そして宿敵、武田信玄に勝つために編み出した戦法は機能するのか。

・純白き鬼札 明智光秀の話である。光秀は信長に仕える前、朝倉義景のところにいた。そこから信長と出会い、家臣になるのだ。光秀がキンカンというあだ名を付けられていたことは初めて知った。また、光秀は信長に足蹴にされて謀反を起こすのだが、謀反の本当の理由は一般に知られているようなものではなかった。独自の解釈が面白い。

・燃ゆる病葉(わくらば) 豊臣秀吉配下、大谷刑部吉継。人格者だったらしい。今で言うハンセン病にかかったようだが、その能力は衰えることなく、秀吉のために粉骨砕身した。石田三成と親しく、秀吉亡き後、石田側に付くように頼まれるのだが、さて吉継の決断は。

・深紅の米 小早川秀秋。言うまでもなく、関ヶ原の戦いで豊臣方を裏切った武将である。この短編では、秀秋は利発だったが、生き延びるために暗愚を装ったようである。裏切って家康側に付くまでの経緯は、フィクションかもしれないが、なかなか楽しめる。

・黄金児 最後は豊臣秀頼である。ここでは、意外な秀頼像が描かれている。

すべて戦国時代の話で、1ページ目で「あの話か」と展開と結末が予想できてしまう作品もあるのだが、独特の表現と迫力ある描写で、楽しみながら最後まで読み通せる物語になっている。
ラベル:小説 冲方丁
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2016年07月11日

覇王の番人

「覇王の番人」                        真保 裕一
★★★★★



少し前、歴史がブームだった。歴女なるものも存在した。そのブームに乗ったわけではないだろうが、著者初めての歴史小説である。主人公は明智光秀。光秀といえば、戦国時代のスターである信長を裏切って殺したというマイナスのイメージが強い。

光秀はなぜ信長を裏切ったのか。この小説では、冷酷な信長に対して、光秀は慈悲深い武将として描かれている。しかし、ある出来事をきっかけに信長がいなければ…と考えるようになる。この作品では、これまでにない歴史解釈をしている。単なる歴史ブームに乗っかった本ではない。

この小説を読むと、光秀がまるで正義を貫いた男といった印象を受ける。本当にそうならば、これまでの歴史観がくつがえされることになるだろう。光秀が優れた武将であったことは間違いないようだ。しかし、味方とすべき人物を間違えたことが敗因となった。

この小説が真実かどうかは別として、歴史はドラマチックだと改めて思う。特にこの本の時代(戦国時代)は個性豊かな武将が多数現れ、その駆け引きや戦いは非常に面白い。星新一のショートショートに、歴史がここまでドラマチックなのは「歴史の神がいてカギとなる人物に指示を出していたから」と結論付ける作品がある。本書のような小説を読むと、さもありなんと思ってしまうほどこの時代は魅力的である。「歴女」にお勧め。
posted by 三毛ネコ at 13:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする