2016年11月12日

一千兆円の身代金

「一千兆円の身代金」                    八木 圭一
★★★



現在の日本の借金、約1000兆円。元副総理の孫が誘拐され、身代金はなんと1000兆円!

日本の財政状態に危機感を持ち続けている者としては、この小説はまさに「我が意を得たり」であった。今まで皆が直面したがらなかった問題を真っ向から指摘している。日本の将来を憂えるメッセージがこの本にはあふれている。しかし、あまり意外な結末ではない。3分の2ぐらいで先が読めてしまう。

ただ、日本に対する警告、問題提起という意味では十分にその役割を果たしていると言える。エンターテインメントという形を取っているので、誰でも気軽に読めるところもいい。政治家にはぜひ読んでもらいたい1冊。
タグ:小説
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2016年07月02日

ギャングスター・レッスン

「ギャングスター・レッスン」                  垣根 涼介
★★★★



ヒートアイランドに続く、クライム・ノベルの第二弾。前作の主人公、アキは20歳になった。そして、前作にも出てきた強盗団に入る決意をする。そして、プロの強盗になるための訓練が始まる・・・

前作の終わりに、この作品への伏線があり、面白くなりそうだという予感はあった。読み始めてみると、予想に違わず面白い。アキが強盗団の一員になっていく過程が記されている。それが、剣豪小説で弱い主人公が剣術の修行をし、だんだん上達して強くなっていく様を思い起こさせるのだ。別の言い方をすれば、RPGゲームで主人公が敵を倒し、経験を積んでレベルアップしていくときの達成感と言えるだろうか。強盗として成長(?)していく過程がこの小説の魅力である。ハッと気づくと2時間ぐらい経っている・・・そんな力を持つ小説である。車に関するかなりマニアックな説明もあるのだが、それも飽きることなく読める。作者の書き方が上手いのか、何を言っているかがなんとなく分かるのだ。

強盗団の仕事は、実に無駄がない。入念に下調べをし、慎重すぎるほど慎重に準備をし、事を運ぶ。裏の世界で生き残るにはこれくらいの用意周到さが必要なのだ、と納得させられる。

全体的に軽いノリの小説。中身があるとは言えないが、クライム・ノベル好きなら面白く読めるだろう。
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2016年06月20日

ヒートアイランド

「ヒートアイランド」                     垣根 涼介
★★★★★



最初から、いかにも現代風の雰囲気。主人公たちは、一種のケンカのイベントとストリートファイトで金を稼いでいる。そんな彼らがある日、大金を手にする。しかし、それは少しヤバい金だった。

クライムノベルなどは、今までたくさん書かれている。ありふれた設定では、読者を引きつけられるはずもない。だから、このストーリーは少しひねりを加えている。文体は読みやすく、不良の若者同士の会話も自然である。ケンカの表現も上手い。その光景が自然に浮かぶ。

ひょんなことからヤクザの金を手にした主人公たち。その金を取り戻そうとする強盗グループ。同じく、自分たちの金を追うヤクザ。三者の思いが絡み合い、舞台はヤクザの組事務所へ−。

この本は確かに面白い。しかし、個人的には主人公のアキとカオルより、強盗グループを応援したくなってしまう。彼らは、スマートに仕事をこなす。その態度が、怪盗ルパンを思わせる。彼らはかっこいい。ケンカパーティーで生きている主人公たちよりも。

しかし、アキたちは、危機的状況を一気に解決できる妙案を思いつく。はたして、その結末は・・・

なかなかよくできている。型どおりのクライムノベルではないが、アクションシーンなどもふんだんに盛り込まれており、すらすら読める小説に仕上がっている。
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2014年03月01日

カラスの親指

「カラスの親指」                         道尾 修介
★★★★




クライム・ノベルである。主人公は詐欺師2人、とスリの少女。最終的には5人になるが。3人には不幸な過去があり、裏の道に入った。と言っても、クライムノベルは大体そうだが、暗い雰囲気はない。主人公たちはけっこうひょうひょうと生活を送っている。ユーモアもあり、飽きさせずに読める作品に仕上がっている。人物の個性もよく描けている。

多少クライムノベルとしてはスケールが小さいが、著者独自の世界観で、すらすらと読み進めることができる。読みやすいというのは、こういう小説にとっては大きな利点である。そして、最後の最後に大どんでん返しがある。真相が分かってみると、切ないが、未来への希望を感じさせてくれる物語である。多少毛色が変わっているが、いい小説だ。
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2013年05月01日

東京湾岸奪還プロジェクト ブレイクスルー・トライアル2

「 東京湾岸奪還プロジェクト ブレイクスルー・トライアル2」          伊園 旬
★★★




「このミス」大賞受賞者による,クライムノベル第二弾。といっても,前作はあるセキュリティーシステムを突破できるかという「大会」だったので,厳密にはクライムノベルではない。冒険小説である。

前作と同様,主人公2人+新たな仲間1人の活躍で,話はすらすらと進んでいく。この種の小説にはありがちな思わぬ障害にいくつかぶつかるのだが,そこを知恵と機転で切り抜けていく。たいていのクライムノベルと同じように,最後はうまくいくと分かっているのだが,それでもついその世界に入り込んで読んでしまう。それが著者の腕の見せどころでもあるのだが。

軽い読み心地は健在。その代わり,感動や考えさせられる部分もないが。前作が楽しめた人は読んでみてもいいだろう。アドベンチャー要素も盛り込まれ,軽いが楽しめる作品になっている。
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2009年05月11日

オリンピックの身代金

「オリンピックの身代金」          奥田 英朗
★★★




設定が昭和39年だけあって、モダンガールや日活のニューフェイスなど、今では死語となった言葉が出てきて読者をノスタルジックな気分にさせてくれる。

昭和30年代の世界観がしっかりと構成されている。文体も平易で読みやすい。殺人や覚せい剤などが出てくるわりには、小説全体のムードは明るい。そういう作風なのか、オリンピックのころの日本の活気が文章から感じられるからなのかは分からないが。

そして物語は動き出す。爆弾騒ぎに脅迫状。犯人は本当に草加次郎という人物なのか。犯人の目的は?犯人らしき人物はあっさりと分かる。ミステリーとは思えず、ちょっと先の読めない小説である。犯人側や、警察側など、いろいろな視点が入れ替わってストーリーは進行する。

物語の中で、マルクス主義について語られる部分がある。しかし、いささか時代錯誤という感が否めない。まあ、舞台が昭和39年なので仕方ないのだが。マルクスは、資本主義が世界中に行き渡り、その頂点にある国が崩壊すると予言したらしい。しかし、現実はどうか。サブプライムショックがあったとはいえ、アメリカはまだ崩壊してはおらず、そのずっと前にソ連はロシアに変わり、中国は資本主義経済を取り入れている。共産主義と比べて、どちらがより優れたシステムであるかは明らかであろう。

読んでいくうちに、だんだん作者の言いたいことが分かってくる。彼は、第二次大戦前でも戦後でも、人民が搾取される構造は変わらないといいたいのだ。身分の低い(エリートでない)人々は、劣悪な環境の中で黙々と働き、死んでも労災認定すら受けられない。この民主主義と銘打たれた社会の抱える矛盾。そんなことを伝えたいのだろう。

この本を読んで、改めて共産主義の欠点が分かった。住居がタダで、食料も平等に配分されるなら、誰も真面目に働こうとは思わないだろう。易きに流れる。それが人間の性質だ。共産主義にしても、そのシステムを管理する人間が必要であり、その人々が上に立つ。そうすれば、どうしても格差が生じてくる。誰でも分かる理屈である。

面白くは読めるのだが、クライム・ノベルとしてはいまひとつか。あっと驚くような奇抜なアイデアがあるわけでもなく、特に前半はアクションシーンもない。それでも、後半になるとミステリー的な要素も加わり、アクション・シーンも出てきて、すらすらと読める。しかし、全体としては、もうひとひねり欲しいところである。



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2009年01月24日

奪取

「奪取」                   真保 裕一
★★★★★






主人公は、テレカの偽造や、外国の通貨を使ってゲーセンで遊んだりしている、ちょっと不良の若者2人。その1人がヤクザに1200万円の借金を作ってしまった。そこで2人が考えたのは…偽札作りである。

この作家にしては珍しく、文体が軽く、読みやすい。重厚で丁寧な文体でしか書けないと思っていたのだが、それは誤解だったようだ。ダブルでエンターテインメント系の文学賞を取ったのもうなずける。

主人公たちは、いいアイデアを考え出し、それを実行に移していく。計画した犯罪を実行するために準備をするのだが、その様子が実に細かく描かれている。模倣犯が出ないかと心配になるくらいだ。ひとつひとつ課題をクリアしていく彼らに、知らず知らず感情移入し、応援している自分に気がつく。これこそ、クライム・ノベルの真骨頂である。ノリの軽い会話、割とスピーディーな展開。この作家にしてはホント珍しい。しかし、これだけならこれまでのクライム・ノベルにもありそうな展開である。そこからもう一ひねりを加えなければ、文学賞など取れない。頭脳的な犯罪、アクション・シーン、そして緻密な構成。すべてが相まって、この小説を一流のクライム・ノベルにしている。今までの真保作品からは予想できない小説である。文体、テーマ、そして読みやすさ。エンターテインメントとしては最上級と言ってもよい。偽札を作り、人をだますのだが、その動機が納得できるものであるため、主人公たちにすんなりと感情移入できる。

この作家らしく、かなり長い物語なのだが、この作品ばかりは文句のつけようがない。Page Turnerとは、こういう作品のことを言うのであろう。
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2008年12月21日

パーフェクト・プラン

「パーフェクト・プラン」           柳原 慧
★★★★




第二回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。

最初から、ひと癖もふた癖もありそうな連中が出てきて、面白くなりそうだ。主人公たちの狙いはずばり金である。五億円を儲けようというのだ。しかも、犯罪にならず、誰も傷つかない方法で。いったいどんなプランなのか。秀逸な発想のクライム・ノベルの始まりだ。あらすじについては、ネタバレになるので、これ以上は触れない。

しかし、気になることが一つ。この小説の重要なキーワードの一つとして、「ES細胞」が出てくる。私は以前のレビューで、ES細胞を使うことはかまわないと書いた。しかし、本当に言いたかったことは、厳しい倫理的な規制の下での使用は認めてもよいということだ。この間亡くなった私の敬愛する作家、マイケル・クライトンがその作品の中で指摘しているように、科学には限界があり、人類が生き延びるためにはこれまでの生き方を根底から変えなければならない。人々は科学を万能だと思い込んでいるが、もはや科学はそれ自体が一種の信仰になってしまっている。どうしようもなくなってから後悔したのでは遅い。地球温暖化問題など、20世紀型のライフスタイルが行き詰まろうとしている今こそ、わたしたちは気づかねばならない。―科学には限界があると。しかし、この小説ではES細胞を商業目的で使おうとする企業が出てくる。それはそれで一つの見解ではあるが、私は賛成できない。

オンライン・トレードがこの小説のもう一つのキーワードである。現代の金融取引は、金融工学を駆使してコンピューターで動きを予想してやるらしいが、やり方によっては莫大な金が儲かる。しかし、このやり方は今の情勢では通用しないだろう。なにしろ、世界同時不況どころか、世界恐慌さえ考えられる事態である。場合によっては、戦後の自給自足の生活に戻らなければならない可能性さえある。著者も、まさかこんな事態になるとは思っていなかっただろう。金に金を生ませるような金融立国がうまくいかないことは、今回のアメリカのサブプライム・ショックではっきりした。これからは、大きな政府で、福祉や社会保障が充実した北欧型の福祉大国を目指すのが正しい方向だと思われる。

まあ、そんな堅い話は置いといても、この小説は十分面白い。オンライン・トレード、ES細胞など現代的な素材を使いながら見事にスピーディーなクライム・ノベルに仕上げている。

いろいろな人間が出てくるが、どの人もどこか憎めない。作品の底には「愛」が流れていると感じる。作中で、仲間に対する情や親子の愛などが描かれる。表現はうまいとはいえないので、心を揺さぶられるほどではないが、著者のメッセージが伝わってくる。他人に対する暖かさ。みんなが少しづつ持つ善意。そんなことを伝えたいのだろう。文章はつたない感じがするが、アイデアは今までになく、楽しめる。読んでみる価値はある。
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2008年12月07日

誘拐の果実

「誘拐の果実」               真保 裕一
★★★






大病院の医者の娘が誘拐される。犯人の要求はある患者を殺すこと。とても不可能に思える要求だが、その医者は妙案をひねり出す。そして、もう1つの誘拐。果たして、その驚くべき真相は―

誘拐。確かに卑劣な犯罪ではあるが、主人公たちはその事件をきっかけにしてばらばらだった家族関係を見つめなおし、ひとつにまとまっていく。真相を知ったとき、きっと読者はすがすがしい感動を覚えることだろう。真相は意外性があり、面白い。

しかし、1つ不満がある。展開が遅すぎるのだ。東野圭吾の作品に、「ゲームの名は誘拐」がある。その名の通り誘拐ものだが、心理描写などはほとんどなく、スピーディーに話が進んでいく。しかし、クライム・ノベルとしては十分楽しめる。テンポがいいので、どんどん読み進めることができるのだ。それに比べると、この小説は描写が丁寧である。少し丁寧すぎて、しつこく感じる。ホワイトアウトでは、それが見事にはまっていたのだが、この本はそうとは言えない。正直言って、何度この本を投げ出したくなったことか。細かく描かれすぎていて、読むのが面倒になってくるのだ。まあ、それが著者の作風なのだが。テーマや内容によっては、あっさりとスピーディーな展開にすることも必要である。それができるようになったとき、彼は直木賞を取れるのかもしれない。
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2008年10月05日

ゲームの名は誘拐

ゲームの名は誘拐」            東野 圭吾
★★★★



主人公は広告プランナー。ある大きな仕事から外され、ひょんなことから相手の会社の副社長の娘と知り合い、狂言誘拐を仕掛ける。そして誘拐と言う名のゲームを彼は始める。クライム・ノベルというと、だいたいうまく事が運ぶことになっている。それでも、その過程は面白い。こういう小説は、結末ではなく、過程を楽しむものなのだ。

クライム・ノベル。人はなぜそれに魅了されるのだろうか。犯行がクールだからか。犯人と警察の知恵比べが楽しいのか。いずれも正しい。しかし、一番大きいのは、犯人と一体となり、実際にはできるはずがない犯罪を疑似体験できることだろう。しかも、たいていの場合、こういう小説では血が流れない。純粋に、犯罪の進行を楽しむことができる。読後感も悪くない。こういう本を読むと、読者は普段のストレスや怒りなどから解放される。一服の清涼剤と言ってもよい。それが、私たちが夢中になれる理由であろう。

しかし、この物語は東野圭吾らしく、単なるクライム・ノベルでは終わらない。一筋縄ではいかない小説である。どうぞ、存分に楽しんでいただきたい。
posted by 三毛ネコ at 12:35| Comment(0) | TrackBack(0) | クライム・ノベル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする