2016年10月08日

片想い

「片想い」                           東野 圭吾
★★★★★



久しぶりに会った元アメフト部の女子マネージャーは男の姿になっていた。驚く主人公。アメフトをモチーフとしてかつての仲間同士の思い出や友情が語られる。

性同一性障害。それがこの小説のテーマである。ストーリーの中で登場人物が言う。男と女の扱いが同じならこの障害の人間も手術を受ける必要はないというのである。しかし,これはちょっと違うと感じる。この考えは,いわゆるジェンダー(文化的に作られた性)というものである。それが厳然として存在するのも事実だ。

しかし私は,男女の性差とは生まれつきの身体や脳などの作りの違いからくるものだと思う。例えば,男性と女性の脳には明らかな違いがある。左脳と右脳をつなぐ脳幹という部分で,女性のほうが男性より明らかに幅が広いのである。そのため,女性は男性より左脳と右脳をうまく連携させて使うことができるらしい。そして,この障害の男性の脳は女性に近いことも分かっている。

だとすれば,性同一性障害の人の悩みは,ホルモン剤や手術によってのみ解決できる物理的なものであり,ジェンダーとは関係がないはずなのだ。

人間には優越感がある。もちろん劣等感もある。どちらも,人間が本来持っている性質からくるものだ。人と比べるのが人間の性である。

身体的,精神的な違いを見分け,人によって違った扱いをする―それは,人間の本性だと思う。それを変えて男女を完全に平等にしようとするジェンダー論は,ちょっと無理がある。

確かに,男女の違いを取り払う努力は必要だろう。しかし,それは性同一性障害の解決にはならない。
 
障害をテーマにした重い作品でありながら,同時に優れた読み物にもなっている。さすが東野圭吾,と言うしかない作品である。
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2016年10月03日

パラレルワールド・ラブストーリー

「パラレルワールド・ラブストーリー」               東野 圭吾
★★★★★



パラレルワールド。決して交わることのない2つの世界。そんな中で物語は進行する。いや、正確に言えば2つの世界はほんの少しずつ、交わるのだ。そして、2つの世界には何か関連があるらしいことが分かってくる。不審な点も次々出てくる。いったい、真相はどこにあるのか?

少し変わった設定ではあるが、面白いミステリーになっている。主人公たち3人は複雑な関係になってしまう。そして描かれる2つの世界。その2つがつながったとき、そこには衝撃的な真相が−。

友情と恋愛、どちらを取るか。と書くと、古臭いテーマのようだが、さすがに東野圭吾。理系の専門知識を生かした設定で、うまくこの古くからあるテーマを料理している。私の好みで言えばあまり人間ドラマに興味はなく、ミステリーの真相にだけ関心があるのだが、やはり読者が魅かれるのは普遍的な人間模様なのだろう。そういう意味でも、この作品は十分に読み応えのあるものになっている。

私たちは自分の記憶を強固なものだと思っているが、実際はかなりあやふやなものでしかないのだ。そんな不安定な記憶の世界をこの作品は描き出している。私たちは過去の記憶に基づいて生きている。もし記憶がなければ、何もできなくなってしまうだろう。記憶こそがわれわれを形作っているものなのだ。そんなことを再認識させられた小説であった。

ラストの智彦(主人公の親友)の手紙は感動的だ。それには親友への友情と自分の責任を全うしようとする思いがあふれている。それはこのストーリーを読んできた読者の心を動かさずにはおかないだろう。またひとつ、私の好きな作品が増えた。
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2016年09月24日

戦術リストランテW

「戦術リストランテW」                     西部 謙司
★★★★★



最新のサッカー戦術を分析した本。

ブンデスリーガのグアルディオラのバイエルン・ミュンヘンは「フォーメーションがない」と言われるそうだ。サイドバックがボランチの位置に移動するなど、変化が大きすぎるからなのだが、それはより確実にボールを運び、より強力にフィニッシュするためなのだ。グアルディオラは、例えれば経理の人間に営業をやれと言い、その選手の能力をさらに引き出そうとする。2014〜15年、15〜16年シーズンのバイエルンの攻撃や守備についてかなり詳しく著者が解説する。

そしてこの章では、欧州チャンピオンズリーグのバイエルンvsユベントスの一戦からグアルディオラの戦術を読み解く。

2章では、リーガ・エスパニョーラの2強、バルセロナとレアル・マドリーについて分析している。現在のバルセロナといえば、MSN。ワールドクラスのFW、メッシ、スアレス、ネイマールのことである。この3人を中心とした攻撃的サッカーがバルサの特徴である。ただし、今のバルサはMSNに依存しすぎていて、それが問題のようであるが。

レアルの方は、相変わらずタレント揃いで、強力なチームには違いない。しかし、攻撃的な4-3-3のフォーメーションを選択し、守備に難があったため、無冠に終わり、監督のアンチェロッティは解任された。これが2014〜2015年シーズン。そして2015〜16シーズンでは、ジダンが監督になった。「思ったよりよくやっている」というのが著者の感想である。攻撃的な選手ばかりで守備に難があるのは変わらない。15〜16シーズンはチャンピオンズリーグに専念した方がいいというのが、著者の意見であり、その考え通り、レアルはチャンピオンズリーグで優勝した。

3章には香川真司が所属するブンデスリーガ、ドルトムントの分析もある。監督がトゥヘルになり、ドルトムントのサッカーは堅守速攻からパスサッカーになった。タイプとしてはバイエルンに近くなったという。香川の活躍でドルトムントがチャンピオンズリーグで優勝するのを見たいものだ。

最後の方には、岡崎慎司が所属するプレミアリーグ、レスターの分析がある。レスターが堅守速攻だけで昨シーズントップを走り続けられたのは、バーディーとマレズという、独力で敵陣までボールを運べるタレントがいたからだという。この2人でカウンターで点が取れたわけだ。この2人に加えて、ボランチのカンテという選手もワールドクラス予備軍らしい。もちろん、岡崎の守備面での貢献も大きい。1部残留が目標だったチームが優勝してしまうのだから、サッカーは本当に奥が深い。

最新の欧州のチームや監督、その戦術を分析していて、サッカーファンには十分楽しめる内容になっている。
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2016年09月18日

エデン

「エデン」                          近藤 史恵
★★★★



新聞の広告で見つけて、図書館で予約したのだが、人気のある本だったらしく、手に入ったのは、なんと半年後。自転車ロードレースという、あまり日本ではなじみのない競技が中心なのだが、この作家は分かりやすく読ませる術を心得ている。

誰でも、名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。舞台はツール・ド・フランスである。丁寧な説明で、読み進むうちに、ロードレースの魅力が分かってくる。

スラスラと読める。ミステリーとは言えず、スポーツ小説なのだが、読ませる力は十分に持っている。スポーツ好きでなくても、内容的には面白く読めるだろう。

全体を支配する雰囲気はさわやかで、悪くない。読みやすいというのも、大きな長所だ。しかし、できればミステリー性を強くしたほうが小説として傑作になっただろう。悪くない読後感とともに、少し物足りなさも残る作品である。
posted by 三毛ネコ at 14:18| Comment(0) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月10日

Number 9/16 臨時増刊号

「Number 9/16 臨時増刊号」
★★★★★



ロシアW杯最終予選、初戦UAEに1-2で敗北。しかし、そんなに悲観することもなさそうだ。

今号に、残り試合4勝3分1敗でW杯出場権は獲得できるという記事があるのだ。過去の2位での予選通過国のデータから弾き出した数字のようだ。あくまでも、これまでのデータからの計算にすぎないので、その通りにうまくいくとは限らない。だが、少なくとも「初戦に負けると、W杯出場確率0%」というデータよりは具体的で、試合をする上で参考になる数字だし、何より希望を与えてくれる。

本田へのインタビュー記事もある。彼は、まだ自分はサッカー選手として伸びていると感じているそうだ。能力が落ちてきたら辞める、とも言っている。選手としては2018年W杯までと思っているようなので、これからも日本代表をロシアに導く大活躍を見せてほしい。

ドイツリーグ、マインツの武藤の記事もある。彼は、本田、香川を超えたいと言っている。確かに、本田や香川ばかりがいつまでも主力では困る。いい意味での世代交代が必要なのだ。勢いのある若手と円熟したベテランとの融合によってチームは活性化していく。

日本代表前監督のアギーレもインタビュー記事で言っている。「短期間で最大限のパフォーマンスを出すことを求められるW杯のような国際大会では、年齢の低い選手は確実に必要になってくる」と。

タイ戦の浅野や原口のように、この最終予選、若手選手の大いなる奮起を期待したい。
posted by 三毛ネコ at 16:03| Comment(0) | TrackBack(0) | Number | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする