2017年01月22日

神の子

「神の子」                          薬丸 岳
★★★★



IQ161。主人公、町田博史の知能指数である。一度見たものを写真のように記憶できる、まぎれもない天才である。しかし、彼は戸籍を持っておらず、学校にもまともに行っていない。人に対する共感や人間らしい情緒に欠けている。学歴もないため、まともな仕事はできず、非合法の仕事で稼いでいる。

その町田のボスである室井という人物は、犯罪は神の摂理だと言う。また、犯罪は神が求めている、とまで言う。こんな理屈にはまったく共感できないのだが、作品中の不幸な生い立ちの少年少女には説得力を持って響くようだ。

あることがきっかけで、町田は少年院に入ることになるのだが、その後、どんな展開になるのか−。それは読んでのお楽しみ。

ところどころで語られる正論が胸を突く。「自分は人に変われるチャンスを与えてあげたい」、「辛くても厳しい言葉を言ってくれる人こそが自分にとっての光」といった言葉である。作者が伝えたいメッセージは、そういったセリフではなかろうか。

最初はノワールなのかとも思ったが、そういう小説ではなかった。けっこう笑える場面も盛り込まれている。そして、主人公は人の情に触れ、だんだんと変わっていくのだ。人は変われる、いくらでもやり直せる・・・そんなことを思わされる。

しかし、そんなに簡単に話は終わらない。もう一波乱あるのだ。うまくいっていた展開に次々と問題が起こり、事態は悪化していく。そして一気に真相が分かり、エピローグへ…。やはり、人間関係で傷ついた心を癒やすのは人間でしかなく、人を変えられるのは仲間や恋人、家族など周りの人間の愛情である。人は一人では生きていけない、そんな当たり前のことを実感した小説だった。
タグ:薬丸岳 小説
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2017年01月13日

Number 1/26

「Number 1/26」
★★★★★



テニスの2017年シーズンが始まった。日本人として注目するのは、もちろん錦織圭である。

2016年はタイトルこそ1つだけだったが、自己最多の58勝を挙げ、実り多いシーズンだった。今年はどうだろうか?

今号によれば、錦織はマリーとの差は「僅差」だと思っているらしい。実際、去年も全米で勝ったし、手応えはあるのだろう。

一方、ジョコビッチは苦手にしている。まだ有効な対策も見つかっていないという。

2014年は挑戦者として勢いだけでプレーできた。しかし、今は相手も錦織を研究してくるので、簡単には勝てなくなっている。錦織が現在求めているのは「メンタル面の強化」だという。いろんな意味でのタフさが必要なのだ。

具体的に、マリー、ジョコビッチに勝つにはどうすればいいのか。

ジョコビッチは前回の対戦を分析し、ボールの弾道を変えたりして考えたプレーをしているらしい。もちろん、錦織も考えて対策を練っているのだろうが、ジョコビッチを倒せるほどではないということだろう。もう少し攻めに遊びがあり、またネットプレーなどで一試合の中での走行距離が増えればいい、というのがジョコビッチに対する心構えである。

マリー対策は、ファーストサーブに対するリターンの速度を上げ、バックハンドのダウンザラインなどをうまく使いながら展開を早くしていくことだという。

どちらも、簡単にできることではないが、錦織はまだ27歳。伸びしろはまだあるはずなので、何とかマリー、ジョコビッチを超えて日本人初のグランドスラム制覇を成し遂げてほしいのものだ。
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2017年01月07日

ギフテッド

「ギフテッド」                  山田 宗樹
★★★★



小学校6年生の颯斗の登場から物語は始まる。ある時、検査を受けて自分が「ギフテッド」だということを知る。それから、地元の学校から浮いてしまい、結局ギフテッドばかり集まった学校に行くことになる。そこで彼はかけがえのないギフテッドの仲間を得る。ギフテッドとは何なのか。それは次第に明らかになる。

その特殊性ゆえに、ギフテッドは目の敵にされ、国からも問題視される。特別なギフテッドと平凡な人間。それが、ある事件をきっかけにしてギフテッド排除の動きが急速に高まっていく。

この本を読んで、才能とは何だろう、と考えざるを得なかった。天才や運動神経抜群の者なら他人から評価され、称賛される。しかし、ギフテッドは同じように特別なのにそのことで差別され、追い詰められていく。ならば、そんな才能など必要ないのではないか、と思える。平穏な人生を送りたいなら。天才児なども周りになじめず、周囲から孤立することもある。

才能のない身としては、少しでもそんな物があれば、と夢想するが、実際にはない方が幸せなのかもしれない。それよりも自分の好きなことを見つけて、思う存分それをしたほうが幸せなのだろうとも思えてくる。

物語の方は、思いがけない結末を迎える。ちょっと意外な終わり方なのだが、著者は進化し、新たな段階に入った人類を表現したかったのかもしれない。異質なものに対する間違った差別、特別な才能を持つことの損得、そんなことを描きたかったのだろう。

ギフテッドの謎で読者を引きつけ、その能力によって引き起こされた事件でさらに読ませる。最後まで、どういう結末になるのだろうと想像しながら一気に読めた。ラストの肩すかし感を除けば、抜群に面白い小説である。
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2016年12月27日

マスカレード・ホテル

「マスカレード・ホテル」                  東野 圭吾
★★★★



連続殺人事件。共通点は、現場に残された暗号のみ。このホテルで次に誰かが殺される-そんな設定。探偵コンビの誕生でもある。一人はホテルのフロントクラーク、山岸尚美。もう一人は切れ者の刑事、新田浩介。

ホテルにはいろいろな客が来て、様々な出来事が起こる。そんなことを繰り返しながらホテルの業務は成り立っているのだ。

そんな仕事をこなしながら、新田、尚美のコンビは真相に迫ろうとする。しあkし、フィクションとはいえ、取材に基づいているはずなので、実に様々な客がいるものだ、と思わされる。クレームをつける者、浮気現場を押さえようとする者…などいろいろな人間模様が描かれる。

天空の蜂などに比べると、そんなにスケールの大きい小説ではない。しかし、それが悪いわけでもない。小さい事件を解決すると、そこから本筋の事件への糸口が見つかったりする。そんな風にして話は進んでいく。事の真相が見えたと思ったら、さすが東野圭吾、真相はさらにその先にある。

意外性はあり、構成もうまく、犯行の動機も納得できるものである。刑事新田のホテルマン役になじんでいくところも、読んでいてすがすがしい。ホテル業務と刑事事件を上手に結びつけたミステリーである。なかなか楽しませてくれる作品だ。
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2016年12月04日

楽園のカンヴァス

「楽園のカンヴァス」                       原田マハ
★★★★★



アンリ・ルソー。名前ぐらいはもちろん知っているが、作品は見たことがなく、この本の表紙で初めて目にしたぐらいである。特に心が動かされることもなかった。ならばなぜこの本を読むのか、と言われそうだが、理由は「ゼロ」や「ギャラリーフェイク」などの美術マンガを読んでいたから、というぐらいである。評判も良かったので、読む気になった。

ルソーのある作品についての真贋鑑定をするという形のミステリーになっている。著者は、ニューヨーク近代美術館に勤めていただけあって、リアルに美術の世界が描かれる。

私が一番印象に残った言葉がある。ルソーは「アートだけではなく、この世界の奇跡をこそ見つめ続けていたのだ」と。同感である。芸術というと、私たちは何か特別なものを想像してしまうが、実際はこの世にあるもの、この世の出来事を描写しているのである。文学も、絵画もそうだと思う。ただ、私も含めて、一般人にとっては同じものを見てもそれを特別な対象として受けとめる感性が発達していないだけなのだろう。私たちには平凡な風景がある画家には輝いて見えるのだ。芸術は私たちの日常の中にある。そのことを実感させられる一言だった。

「これまでに書かれたどんな美術ミステリーとも違う」との評の通り、私たちが思い浮かべる「ミステリー」とはちょっと違う。殺人も、ダイイング・メッセージもないが、確かに面白い作品に仕上がっている。肝心の謎は、殺人事件ほど劇的ではないが、アートをテーマにして一気に読み通せる小説である。その年、一番面白い作品に与えられる山本周五郎賞を取った理由も分かる。もっとこの作家の小説を読みたくなった。
posted by 三毛ネコ at 06:56| Comment(0) | TrackBack(0) | エンターテインメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする