2016年10月31日

スフィア―球体

「スフィア―球体」                       マイケル・クライトン
★★★★★



主人公はノーマン。心理学者である。ある日,突然海軍が彼を迎えに来て,彼は太平洋のど真ん中に連れて行かれる。そこにあったのは・・・何と,300年前の宇宙船!いったい,どういうことなのか。そして,ストーリーが進むにつれて,話は意外な方向へ・・・

ドレーク方程式や,海洋生物の知識など,クライトンらしく科学知識をうまく小道具として生かしながら話が進んでいく。Kindleで英語で読んだのだが,実はこの小説,2,3回日本語で読んでいたのでスラスラ読めた。あまり難しい単語も出てこない。改めて英語で読んでみると,その構成のうまさ,独創的なアイデア,科学知識の散りばめかたなどに感心する。天才の仕事としか言いようがない。

また,日本語版ではかなりの意訳をしているところもあって感心させられる。翻訳でも十分面白かったのだから,この翻訳者はかなりの腕なのだろう。

確かな科学の専門知識+批評性+先見性と創造力=クライトンの作品,と言える。彼の作品はエンターテインメントとして優れているばかりではなく,常に我々に疑問を投げかける。科学のあり方はこれでよいのかと。

彼が死んでしまった今,私たちはより科学力の使い方について注意を払わなければならないだろう。

クライトンが残したメッセージは重い。
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2016年10月22日

命の遺伝子

「命の遺伝子」                       高嶋 哲夫
★★★★



トオル・アキツが主人公。ドイツのベルリンから物語は始まる。彼は遺伝学者である。

そのころ,ネオナチの集会で爆発があった。ナチスの戦犯を追っている組織が,爆発の後,ある人の手首を回収した。その人物の推定年齢,112歳。しかし,その手首を見る限り,彼は40代としか思えない。いったいどうなっているのか・・・

最初に提示された謎に加え,アクション・シーンもあり,エンターテインメントとしては十分に成立している。引きこまれて最後まで,というほどではないが,楽しみながら読める。文章もすっきりしていて読みやすい。ただ,遺伝子スリラーとしては最高のものとはいえない。私が読んだ作品の中では,「イエスの遺伝子」が傑作だった。イエス・キリストの遺物からDNAを採取し,その「いやし」の秘密を知ろうとする話である。その面白さに,一気に読んでしまった記憶がある。

それほどではないが,この小説のテーマも悪くはない。十分に読ませる力は持っている。

ある登場人物が言う。「人は死があるからこそ人と言えるのです」と。私たちはみんな不老不死を願う。しかし,それが実現した時,果たして幸せといえるのか。家族も友人も子供も,もちろん師と呼べる人も,すべて死んでいく。しかし,自分だけは生き続け,愚かな人間たちの営みを見続けなければならない・・・そう考えた時に,死は恐怖であると同時に一種の救いでもあることに気が付く。

私はクリスチャンであるが,やはり神の意思に逆らってまで生きたいとは思わない。人間らしい死が迎えられればいい。それが神の望みならば・・・

この本のテーマは根元的で,重い。
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2016年10月15日

総合英語 Forest 6th edition

「総合英語 Forest 6th edition」 石黒 昭博
★★★★★



何年か前に某大手通信添削会社で英語の添削指導者として働いていたのですが,仕事を始める前に高校レベルの文法ぐらいはひと通りやっておこうと思い,購入しました。

カラーで色分けされていて,また図も多く,非常に分かりやすかったですね。私が英検準1級だったころですが,文法書を読み通したことはなかったので,けっこう新しい発見がありました。2か月ほどで,3回通読しました。準拠問題集ももちろんやりました。この文法書を学習した時はまだ中学一年生の添削だったので,あまりこの本の内容が役に立つことはなかったのですが,この先レベルアップしていけばきっと役に立つと思わせてくれた内容でした。

やり方としては,基本的には例文を必ず数回音読しました。英語の達人の多くは音読を勧めています。実用英語では音読は必須です。もちろん,受験英語にも音読は役立ちます。繰り返し音読すれば,その文章をより深く理解できるし,暗記するぐらいまで音読すれば,文法が体に刷りこまれ,反射的にその文法が使えるようになります。これからフォレストをやる人は,ぜひ音読を中心にして学習してみてください。
タグ:文法
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2016年10月08日

片想い

「片想い」                           東野 圭吾
★★★★★



久しぶりに会った元アメフト部の女子マネージャーは男の姿になっていた。驚く主人公。アメフトをモチーフとしてかつての仲間同士の思い出や友情が語られる。

性同一性障害。それがこの小説のテーマである。ストーリーの中で登場人物が言う。男と女の扱いが同じならこの障害の人間も手術を受ける必要はないというのである。しかし,これはちょっと違うと感じる。この考えは,いわゆるジェンダー(文化的に作られた性)というものである。それが厳然として存在するのも事実だ。

しかし私は,男女の性差とは生まれつきの身体や脳などの作りの違いからくるものだと思う。例えば,男性と女性の脳には明らかな違いがある。左脳と右脳をつなぐ脳幹という部分で,女性のほうが男性より明らかに幅が広いのである。そのため,女性は男性より左脳と右脳をうまく連携させて使うことができるらしい。そして,この障害の男性の脳は女性に近いことも分かっている。

だとすれば,性同一性障害の人の悩みは,ホルモン剤や手術によってのみ解決できる物理的なものであり,ジェンダーとは関係がないはずなのだ。

人間には優越感がある。もちろん劣等感もある。どちらも,人間が本来持っている性質からくるものだ。人と比べるのが人間の性である。

身体的,精神的な違いを見分け,人によって違った扱いをする―それは,人間の本性だと思う。それを変えて男女を完全に平等にしようとするジェンダー論は,ちょっと無理がある。

確かに,男女の違いを取り払う努力は必要だろう。しかし,それは性同一性障害の解決にはならない。
 
障害をテーマにした重い作品でありながら,同時に優れた読み物にもなっている。さすが東野圭吾,と言うしかない作品である。
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2016年10月03日

パラレルワールド・ラブストーリー

「パラレルワールド・ラブストーリー」               東野 圭吾
★★★★★



パラレルワールド。決して交わることのない2つの世界。そんな中で物語は進行する。いや、正確に言えば2つの世界はほんの少しずつ、交わるのだ。そして、2つの世界には何か関連があるらしいことが分かってくる。不審な点も次々出てくる。いったい、真相はどこにあるのか?

少し変わった設定ではあるが、面白いミステリーになっている。主人公たち3人は複雑な関係になってしまう。そして描かれる2つの世界。その2つがつながったとき、そこには衝撃的な真相が−。

友情と恋愛、どちらを取るか。と書くと、古臭いテーマのようだが、さすがに東野圭吾。理系の専門知識を生かした設定で、うまくこの古くからあるテーマを料理している。私の好みで言えばあまり人間ドラマに興味はなく、ミステリーの真相にだけ関心があるのだが、やはり読者が魅かれるのは普遍的な人間模様なのだろう。そういう意味でも、この作品は十分に読み応えのあるものになっている。

私たちは自分の記憶を強固なものだと思っているが、実際はかなりあやふやなものでしかないのだ。そんな不安定な記憶の世界をこの作品は描き出している。私たちは過去の記憶に基づいて生きている。もし記憶がなければ、何もできなくなってしまうだろう。記憶こそがわれわれを形作っているものなのだ。そんなことを再認識させられた小説であった。

ラストの智彦(主人公の親友)の手紙は感動的だ。それには親友への友情と自分の責任を全うしようとする思いがあふれている。それはこのストーリーを読んできた読者の心を動かさずにはおかないだろう。またひとつ、私の好きな作品が増えた。
posted by 三毛ネコ at 10:25| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする