2016年07月11日

覇王の番人

「覇王の番人」                        真保 裕一
★★★★★



少し前、歴史がブームだった。歴女なるものも存在した。そのブームに乗ったわけではないだろうが、著者初めての歴史小説である。主人公は明智光秀。光秀といえば、戦国時代のスターである信長を裏切って殺したというマイナスのイメージが強い。

光秀はなぜ信長を裏切ったのか。この小説では、冷酷な信長に対して、光秀は慈悲深い武将として描かれている。しかし、ある出来事をきっかけに信長がいなければ…と考えるようになる。この作品では、これまでにない歴史解釈をしている。単なる歴史ブームに乗っかった本ではない。

この小説を読むと、光秀がまるで正義を貫いた男といった印象を受ける。本当にそうならば、これまでの歴史観がくつがえされることになるだろう。光秀が優れた武将であったことは間違いないようだ。しかし、味方とすべき人物を間違えたことが敗因となった。

この小説が真実かどうかは別として、歴史はドラマチックだと改めて思う。特にこの本の時代(戦国時代)は個性豊かな武将が多数現れ、その駆け引きや戦いは非常に面白い。星新一のショートショートに、歴史がここまでドラマチックなのは「歴史の神がいてカギとなる人物に指示を出していたから」と結論付ける作品がある。本書のような小説を読むと、さもありなんと思ってしまうほどこの時代は魅力的である。「歴女」にお勧め。
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2016年07月02日

ギャングスター・レッスン

「ギャングスター・レッスン」                  垣根 涼介
★★★★



ヒートアイランドに続く、クライム・ノベルの第二弾。前作の主人公、アキは20歳になった。そして、前作にも出てきた強盗団に入る決意をする。そして、プロの強盗になるための訓練が始まる・・・

前作の終わりに、この作品への伏線があり、面白くなりそうだという予感はあった。読み始めてみると、予想に違わず面白い。アキが強盗団の一員になっていく過程が記されている。それが、剣豪小説で弱い主人公が剣術の修行をし、だんだん上達して強くなっていく様を思い起こさせるのだ。別の言い方をすれば、RPGゲームで主人公が敵を倒し、経験を積んでレベルアップしていくときの達成感と言えるだろうか。強盗として成長(?)していく過程がこの小説の魅力である。ハッと気づくと2時間ぐらい経っている・・・そんな力を持つ小説である。車に関するかなりマニアックな説明もあるのだが、それも飽きることなく読める。作者の書き方が上手いのか、何を言っているかがなんとなく分かるのだ。

強盗団の仕事は、実に無駄がない。入念に下調べをし、慎重すぎるほど慎重に準備をし、事を運ぶ。裏の世界で生き残るにはこれくらいの用意周到さが必要なのだ、と納得させられる。

全体的に軽いノリの小説。中身があるとは言えないが、クライム・ノベル好きなら面白く読めるだろう。
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2016年06月25日

M8

「M8」 高嶋 哲夫
★★★★



M8。マグニチュード8である。ずばり、日本でM8の直下型地震が起きる。場所は読んでのお楽しみ。主人公になるのは阪神大震災を学生のときに経験した若手の地震学者。地震予知のシミュレーションをしていて、その予想が半年後の直下型地震だったのだ。主人公の彼女も友人も、阪神大震災を経験し、それぞれ地震に関する仕事に就く。彼らの真摯な姿勢を読み取ると、フィクションだが、震災の与えた影響の大きさを思わずにはいられない。

最初、いくつかの余震が起こる。それを計算に入れてシミュレートしていくと、予測はさらにシビアなものになっていく。

引き込まれるように読ませる力がある。著者は元科学者だけあって、その地震に関する科学的な説明は正確で、このストーリーにリアリティを与えている。東海地震についても触れられているが、南海トラフ地震を含めて、あと何十年かのうちに起こるのは間違いない。この本は、その時のシミュレーションとしても読める。こういった小説は好きなのだが、構成を変えればもっと面白くなったと思う。個人的には、台風をテーマにしたジェミニの方舟のほうが気に入っている。

この本にあるように、地震の予測シミュレーションは可能になるのだろうか。東海や南海トラフ地震が予知できるなら、被害は相当減らせるはずだ。そんな日ができるだけ早く来ることを願うのみである。
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2016年06月20日

ヒートアイランド

「ヒートアイランド」                     垣根 涼介
★★★★★



最初から、いかにも現代風の雰囲気。主人公たちは、一種のケンカのイベントとストリートファイトで金を稼いでいる。そんな彼らがある日、大金を手にする。しかし、それは少しヤバい金だった。

クライムノベルなどは、今までたくさん書かれている。ありふれた設定では、読者を引きつけられるはずもない。だから、このストーリーは少しひねりを加えている。文体は読みやすく、不良の若者同士の会話も自然である。ケンカの表現も上手い。その光景が自然に浮かぶ。

ひょんなことからヤクザの金を手にした主人公たち。その金を取り戻そうとする強盗グループ。同じく、自分たちの金を追うヤクザ。三者の思いが絡み合い、舞台はヤクザの組事務所へ−。

この本は確かに面白い。しかし、個人的には主人公のアキとカオルより、強盗グループを応援したくなってしまう。彼らは、スマートに仕事をこなす。その態度が、怪盗ルパンを思わせる。彼らはかっこいい。ケンカパーティーで生きている主人公たちよりも。

しかし、アキたちは、危機的状況を一気に解決できる妙案を思いつく。はたして、その結末は・・・

なかなかよくできている。型どおりのクライムノベルではないが、アクションシーンなどもふんだんに盛り込まれており、すらすら読める小説に仕上がっている。
posted by 三毛ネコ at 07:07| Comment(0) | TrackBack(0) | クライム・ノベル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月11日

スペイン人はなぜ小さいのにサッカーが強いのか

「スペイン人はなぜ小さいのにサッカーが強いのか」         村松 尚登  
★★★★



日本代表が手本にすべきはスペインのサッカー。この本を読みながら、そう思った。

スペイン選手の身長は高くない。シャビ、イニエスタは170センチだ。それにもかかわらず、スペインは南アフリカW杯で優勝した。常にパスを回し、フィジカルコンタクトをできるだけ避けているのも、勝てた理由のひとつだ。

最終ラインが上がり、ちょっと前がかりになっていても、攻守の切り替えを速くし、ボールを奪われたらすぐに奪い返す。こういったプレーがW杯を取る原動力になったのだ。また、スペイン代表のサッカーはFCバルセロナのサッカーに非常に近い。そのバルセロナには下部組織が12チームあり、すべてボールポゼッションを重視するパスサッカーを目指している。だからこそ、スペイン代表はバルセロナの選手を多く起用して同じようなサッカーができる。

一方、日本はどうか。Jリーグは基本的にパスサッカーである。だが、日本代表のサッカースタイルはまだ固まっていない。イタリアのカウンターサッカー、スペインの攻撃的なパスサッカーなどのように、これが日本のサッカーだというはっきりとした方向性がまだ見えていないのだ。できるだけ早くそれを見つけることが、日本が世界の強国になれる道だと思う。その意味で、ハリルホジッチに対する期待は大きい。

著者はコーチをしていて、「戦術的ピリオダイゼーション理論」に出会う。これは、「サッカーはサッカーをする中でうまくなる」という考え。日本的な、ドリブルならドリブルの練習だけをするやり方では、テクニックは向上してもサッカーはうまくならないということだ。そこには、サッカーに必要な「状況判断」が含まれていないから。こういった考え方からも、オシムが主張していた「考えながら」走るサッカーを身につける必要があると実感する。

この本を読めば、日本が世界の強豪になるためのヒントを見出すことができる。スペインから学ぶべきことと、日本の可能性を感じさせてくれる書である。
タグ:日本代表 W杯
posted by 三毛ネコ at 10:37| Comment(0) | TrackBack(0) | サッカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする