2016年09月24日

戦術リストランテW

「戦術リストランテW」                     西部 謙司
★★★★★



最新のサッカー戦術を分析した本。

ブンデスリーガのグアルディオラのバイエルン・ミュンヘンは「フォーメーションがない」と言われるそうだ。サイドバックがボランチの位置に移動するなど、変化が大きすぎるからなのだが、それはより確実にボールを運び、より強力にフィニッシュするためなのだ。グアルディオラは、例えれば経理の人間に営業をやれと言い、その選手の能力をさらに引き出そうとする。2014〜15年、15〜16年シーズンのバイエルンの攻撃や守備についてかなり詳しく著者が解説する。

そしてこの章では、欧州チャンピオンズリーグのバイエルンvsユベントスの一戦からグアルディオラの戦術を読み解く。

2章では、リーガ・エスパニョーラの2強、バルセロナとレアル・マドリーについて分析している。現在のバルセロナといえば、MSN。ワールドクラスのFW、メッシ、スアレス、ネイマールのことである。この3人を中心とした攻撃的サッカーがバルサの特徴である。ただし、今のバルサはMSNに依存しすぎていて、それが問題のようであるが。

レアルの方は、相変わらずタレント揃いで、強力なチームには違いない。しかし、攻撃的な4-3-3のフォーメーションを選択し、守備に難があったため、無冠に終わり、監督のアンチェロッティは解任された。これが2014〜2015年シーズン。そして2015〜16シーズンでは、ジダンが監督になった。「思ったよりよくやっている」というのが著者の感想である。攻撃的な選手ばかりで守備に難があるのは変わらない。15〜16シーズンはチャンピオンズリーグに専念した方がいいというのが、著者の意見であり、その考え通り、レアルはチャンピオンズリーグで優勝した。

3章には香川真司が所属するブンデスリーガ、ドルトムントの分析もある。監督がトゥヘルになり、ドルトムントのサッカーは堅守速攻からパスサッカーになった。タイプとしてはバイエルンに近くなったという。香川の活躍でドルトムントがチャンピオンズリーグで優勝するのを見たいものだ。

最後の方には、岡崎慎司が所属するプレミアリーグ、レスターの分析がある。レスターが堅守速攻だけで昨シーズントップを走り続けられたのは、バーディーとマレズという、独力で敵陣までボールを運べるタレントがいたからだという。この2人でカウンターで点が取れたわけだ。この2人に加えて、ボランチのカンテという選手もワールドクラス予備軍らしい。もちろん、岡崎の守備面での貢献も大きい。1部残留が目標だったチームが優勝してしまうのだから、サッカーは本当に奥が深い。

最新の欧州のチームや監督、その戦術を分析していて、サッカーファンには十分楽しめる内容になっている。
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2016年09月18日

エデン

「エデン」                          近藤 史恵
★★★★



新聞の広告で見つけて、図書館で予約したのだが、人気のある本だったらしく、手に入ったのは、なんと半年後。自転車ロードレースという、あまり日本ではなじみのない競技が中心なのだが、この作家は分かりやすく読ませる術を心得ている。

誰でも、名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。舞台はツール・ド・フランスである。丁寧な説明で、読み進むうちに、ロードレースの魅力が分かってくる。

スラスラと読める。ミステリーとは言えず、スポーツ小説なのだが、読ませる力は十分に持っている。スポーツ好きでなくても、内容的には面白く読めるだろう。

全体を支配する雰囲気はさわやかで、悪くない。読みやすいというのも、大きな長所だ。しかし、できればミステリー性を強くしたほうが小説として傑作になっただろう。悪くない読後感とともに、少し物足りなさも残る作品である。
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2016年09月10日

Number 9/16 臨時増刊号

「Number 9/16 臨時増刊号」
★★★★★



ロシアW杯最終予選、初戦UAEに1-2で敗北。しかし、そんなに悲観することもなさそうだ。

今号に、残り試合4勝3分1敗でW杯出場権は獲得できるという記事があるのだ。過去の2位での予選通過国のデータから弾き出した数字のようだ。あくまでも、これまでのデータからの計算にすぎないので、その通りにうまくいくとは限らない。だが、少なくとも「初戦に負けると、W杯出場確率0%」というデータよりは具体的で、試合をする上で参考になる数字だし、何より希望を与えてくれる。

本田へのインタビュー記事もある。彼は、まだ自分はサッカー選手として伸びていると感じているそうだ。能力が落ちてきたら辞める、とも言っている。選手としては2018年W杯までと思っているようなので、これからも日本代表をロシアに導く大活躍を見せてほしい。

ドイツリーグ、マインツの武藤の記事もある。彼は、本田、香川を超えたいと言っている。確かに、本田や香川ばかりがいつまでも主力では困る。いい意味での世代交代が必要なのだ。勢いのある若手と円熟したベテランとの融合によってチームは活性化していく。

日本代表前監督のアギーレもインタビュー記事で言っている。「短期間で最大限のパフォーマンスを出すことを求められるW杯のような国際大会では、年齢の低い選手は確実に必要になってくる」と。

タイ戦の浅野や原口のように、この最終予選、若手選手の大いなる奮起を期待したい。
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2016年08月30日

イチローの哲学

「イチローの哲学」                     奥村 幸治
★★★★



この本が書かれたのが2011年ごろ。イチローが10年連続200安打を達成した次の年である。まだマリナーズ所属のころだ。

著者はイチローのオリックス時代にバッティングピッチャーを勤めており、イチローとは親しかった。その後はトレーナーをしながら、少年野球の指導などもしているようだ。

イチローは自分が考えて「これだ」と確信して築き上げたスタイルは絶対に変えないという。そういうイチローだからこそ、一流のメジャーリーガーになれたのだ。しかし、自分が納得できたことは素直に受け入れる柔軟性も持っている。

イチローのルーティーンは有名だが、それはオリックス時代から実践していたらしい。バッティング練習では、まずレフト方向への流し打ちから始め、次にセンター方向、最後はライト方向に打ち返す。この頃からイチローは自分のルーティーンをしっかり守り、結果を出してきたころが分かる。

またイチローはヒットが出ない時期に練習量を増やしたりはしなかった。多くの選手が練習量を増やすのは「不安」だからである。しかし、イチローの場合は普段の練習でバットをボールに当てるタイミングやミートポイント、バットの出し方や角度を細かくチェックしているので、フォームやスイングが崩れた時、すぐに気づいて微調整することができる。だから特別な練習はしないのである。

イチローは自分が必要だと感じる時以外は練習をしすぎない。二軍時代に自分のバッティングフォームを確立する。春のキャンプでは確立したフォームをさらに技術的に進化させていく。そういうときは、イチローは猛練習をする。しかし、シーズン中のバッティング練習はバッティングフォームを確認したり微調整するためのものなので、そんなにハードな練習はしないのである。非常に合理的な考え方だ。

バッターボックスに入ったイチローは「目が怖い」と相手投手から言われていたらしい。猛獣が獲物を捕らえる時のような目だと言われていた。それを著者は、イチローが「無の境地」になっていて、ピッチャーを仕留めることだけに集中しているからだと推測している。

それから、この本は著者自身の人生について語っていく。打撃投手をしながらプロ野球の入団テストを受けていた著者だが、結局その夢をあきらめ、スポーツのパーソナルトレーナーになる。

そして、中学硬式野球チームを立ち上げる。教え子にはメジャーリーガー、田中将大もいた。著者が目指したのは、高い意識を持って野球に取り組み、今の自分に求められる役割は何なのかをきちんと自分で考える力を育てることである。メジャーリーグでは、選手が自分の考えを言わないとコーチがアドバイスできないという。従って、選手は目的意識を持って自発的に練習するようになる。

本書の後半は、著者が実践している野球の指導論や、指導者の条件について書かれている。前半のイチローとのエピソードはもちろん面白いのだが、後半の指導論も興味深い。

ベストセラーではないが、意外に拾い物の読書だった。
posted by 三毛ネコ at 16:33| Comment(0) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月21日

アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ

「アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ」           ジョーマーチャント
★★★★★



アンティキテラ。この地名を聞いたことがある人はあまりいないだろう。ギリシャにある島である。そこで、ある機械が発見される。およそ二千年前のものだ。しかし、時計が出現したのは一千年前ぐらいのことであり、二千年前のギリシャ人がそんな機械を持っていたはずはない。謎は深まるばかり。そんな中、学者たちは知的好奇心をみなぎらせ、この機械の正体を知ろうとする。

そしてプライスという科学者によって謎が解ける。その過程は非常に面白く、科学好きならずとも知的興奮を覚えるだろう。果たして、どのような機械だったのか。それは読んでもらうしかない。

しかし、その後ライトという博物館の学芸員がプライスが解ききれなかった謎に挑戦する。それから、ついに彼は謎を見事に解いた…ように見える。しかし、実際はもうひとつどんでん返しがあった。なかなかうまい構成である。上質の推理小説を読むように、アンティキテラの機械の謎解きが楽しめる。欠点としてはやや説明が細かすぎること。読者が知りたいのはコンピューターの謎であり、細かい説明ではない。もう少しドラマチックにしてもよかったと思うのだが。

そしてついに、すべての謎が明かされる。二千年前に、今までは考えられなかった知識や技術が存在したのだ。今までの科学史観を覆す大発見である。当時の人間の知恵の深さにはただただ脱帽するばかりである。

途中、ちょっと単調な部分もあるが、それを補って余りある知的刺激を得られる。読みごたえは十分ある本。
posted by 三毛ネコ at 13:34| Comment(0) | TrackBack(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする